2013年6月2日日曜日

民法改正の真実(講談社)

著者:鈴木仁志 出版社:講談社 発行年:2013年 本体価格:1700円
 民法改正の作業が現在進行中で、たまにの中間報告について新聞などでも報道されている。現在の日本の民法にはいくつか解釈が難しい規定があり、たとえばマンションなどの特定物について「危険負担」という考え方がある。マンションを引き渡す前に天災などで目的物が滅失した場合には、民法の規定では債務者がそのリスクを負担する、つまりまだ住んでもいないマンションについてその購入代金を買い手が売り手に支払うといった規定が有り、そうした規定については確かに改正していかなくてはならない。ただ連帯保証の保証限度額に制限を設けるなど貸し手となる金融業界が反発している改正案も含む今回の民法改正は、実務界の理解も得ることが難しそうだ。
 この本では民法改正の中間報告ができあがるまでのプロセスについての問題点(法務省の官僚が勤務時間内に民間の研究団体で試案を作成していたことや、その民間の研究団体からかなりの部分のメンバーが公的な審議会に横滑りしていることなど)が指摘されているほか、「そもそも民法を全面改正する必要があるのか」といった問題提起がなされている。
 商法や有限会社法の規定を整理して会社法を施行したのとは事情が異なり、民法は企業だけではなく一般の市民も巻き込む大改正となる。これを一般社会のニーズと無関係に施行した場合、たとえば保証債務をする場面や契約の解除をおこなう場面などで、かなりこれまでの実務慣行とは異なる場面がでてくるだろう。会社法や金融商品取引法とは異なり、あくまで法律を知らない一般人にも関係してくるのだから、改正にはあまり拙速主義をとるべきではないだろう。改正を推進している内田貴氏(元東京大学教授・法務省参与)の個人的能力の高さや人徳の素晴らしさなどに疑念はない。ただし、同じ手法で将来、よからぬ人間が法律の改正を推進することになっては、今回の民間研究団体の成果を審議会に持ち込み、さらに情報公開にも制限を設けて「50年先をみすえる」というのは、情報公開法が制定され、さまざまな利害関係者のニーズに応えるという21世紀の日本の方向性とは大きく道がそれることになる。関係者には今一度、これまでの改正のプロセスの情報公開や一部特定学派に偏った法改正内容になっていないかどうかなどの自己チェックをお願いしたいものだ。金融関係や経済団体、弁護士会など種々の団体から「懸念」「心配」「反対」が表明されている現在、改正を推進しようとしている法務省も、今一度、改正プロセスに問題点がなかったかどうかチェックをお願いしたいものだ。

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