2013年6月24日月曜日

電子の標的(講談社)

著者:濱嘉之 出版社:講談社 発行年:2013年 本体価格:629円
 在韓日本大使館一等書記官の任務を完了して、新たに警視庁捜査一課に設置された特別捜査官に就任したキャリア官僚「藤江康央37歳」を主役にすえて、大手商社の跡取りの誘拐事件解決を描く。「え~、んなまさか~」というストーリーの展開だらけだが、著者はもともと警視庁警備一課、公安部公安総務課などに勤務していたれっきとして警察官。一種、「こういう捜査ができるといいな」という理想が込められているのかもしれない。公安警察と刑事警察の「しきり」をとっぱらい、さらには各種警備会社の設置した防犯カメラや内閣情報衛星センターの撮影画像、組織犯罪対策部との連携やSATとSITの協同作業‥と素人目にみても「そんなに連携とれるものだろうか」というほど、都合よく捜査が進んでいく。理想論のはざまに、元警察官らしくパチンコ産業についての文章や羽田空港警察署についての説明などどきっとするほどリアルな文章もはさまれているのが興味深い。
 さすがにこれだけの機材と組織を運用しただけのことはある「結果」になるが、少なくとも防犯カメラの分析や音声の分析のくだりはもう実用化され、もしかするとこの小説の先にまでいたっているのかもしれないという気がした。防犯カメラも犯罪がどこでどのように発生するか予測できず、さらに凶悪犯罪を防止するためにも設置はやむをえないが、遠からず、発生と同時に容疑者が特定できる時代もくるような気がする。「電子」で担保される平和というのも、複雑な思いだが、それで犯罪被害が軽減されるのであれば仕方がないことだろう。ちなみに主人公はオッサンなのに、えらくもてもての設定。キャリア官僚が現場にこだわる‥というのでは「新宿鮫」シリーズが有名だが、あまりに完璧すぎる主人公よりも、「新宿鮫」のように「陰」がある主人公のほうが、読者は感情移入できるかもしれない。

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