2013年6月4日火曜日

モンスター(幻冬舎)

著者:百田尚樹 出版社:幻冬舎 発行年:2012年(文庫本) 本体価格:724円(文庫本)
 「化け物」と呼ばれ続けた女性がとあるきっかけで美容整形に目覚め、ゆっくりと生まれ変わり、そして故郷へ帰っていく…。男性の作家が書いているだけあって、「女性から見た頭の悪い男性像」を自虐的に描く描写が圧巻。主人公の女性の心理がどれだけあてはまるのかは想像の範囲内だが、「美女」に手玉にとられるシーンのそれぞれが「あ」「そういえば」「これはあるかも」というものばかり。ということは、「女性から見た頭の悪そうな男性」というのは、「男性から見ても頭が悪そうな男性」とそれほど違わないのかもしれぬ。
 露悪的なまでに「醜い顔」の細部が描写され、さらに美容整形手術を少しづつ受けていくプロセスがなんとはなしに読者にも快感を与えてくれる。水戸黄門ばりに最初は主人公と同じように「化け物」として虐げられつづける心境に陥るが、美容整形によって主人公がパワーアップしていくにつれて読者もなにとはなしにパワーアップしていく。そして小説の冒頭とはうらはらにエンディングは「これでもか」といわんばかりの純愛物語に変化していく。古典的な小説手法ではあるけれど、「宝物」や「武器」を手にした若き勇者が最終的には目的を達成して、さらに別世界へ旅立つ…という構図をそのまま現代風になぞっている。だからこそ読後感もまた爽やか。映画「ロード・オブ・ザ・リング」三部作もそうだったけれど、結局、「仲間」というアイテムを得て「指輪」をしかるべき場所に戻したホビットは故郷にかえってまた再び旅立つが、この小説もまた旅立つ場所は違えど、ホビットと同じように数々の苦難と別離を繰り返した挙句に目標達成→再出発という粗筋をたどる。「モンスター」という言葉のイメージが読む前と読んだあとにこれだけ違ってくるのがまた小説の面白さか。

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