2013年1月17日木曜日

船を編む(光文社)

著者:三浦しおん 出版社:光文社 発行年:2011年 本体価格:1500円
 ヴィレッジ・ヴァンガードはやはりユニークな「書店」で、この本はまだ平積み。冒頭から最後まで一気読み。久方ぶりに胸が熱くなるような小説を読んだ。
 冒頭で登場する「荒木」の生い立ちから話が始まり、さてはこの物語の主人公かと思いきやさにあらず、端正なこの書籍のなかに、まさしく「言葉」と「時間」の海が広がり、主人公は一応いるのだが、実際には辞書をめぐる年代記。舞台の春日、後楽園、神楽坂、神田神保町というロケーションも実に見事。春日から本郷三丁目のあたりにはまだいくつかは下宿が残っているはず。ホコリと古本が集積する古びた辞書編集部の雰囲気を醸し出すにはやはりこのロケーションでなくては…。
 登場人物はほとんど全部が善人で、「実際にはけっこう妙なメンバーも参加することあるのではないの?」とツッコミも入れたくなるほど、辞書の編集をめぐって言葉の世界を編んでいこうという気運がページにあふれてくる。それがまた自分の日常生活のエネルギーにもなってくるから優れた小説というのはまったく不思議な産物だ。常に用例をメモしてさらに行数を計算して紙にもこだわって…というプロセスのひとつひとつがまた羨ましくなるほど「仕事」を楽しんでいるという感じでよい。
 あ、用例をメモするさいには見事なほどウェブの世界はでてこないのだが、ウェブと辞書づくりをあわせていくと、人間関係や熱意が作品を作っていくという雰囲気が伝わりにくいと著者が判断したのかもしれない。映画化もされるというし、その出来栄えをまた鑑賞するのがこれからの最大の楽しみだ。

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