2013年1月7日月曜日

警察庁長官を撃った男(新潮社)

著者:鹿島圭介 出版社:新潮社 発行年:2012年(文庫本) 本体価格:590円(文庫本)
 このルポタージュの著者がなんとフリーランスのルポライター。2010年3月に公訴時効をむかえた国松元警察庁長官狙撃事件の捜査の裏側と刑事部の捜査によって真犯人ともくされていた別の容疑者への取材。そしてオーム真理教と狙撃事件との関わりの分析など、多角的な視野から状況を分析。狙撃事件発生直後から公安部がこの事件を担当したが、もともと過激派など特定団体の違法行為を監視するのが得意な部署と狙撃事件など事件の証拠を積み重ねて真犯人に肉薄していく刑事部とでは事件へのアプローチがまるで違う。「踊る大捜査線」などでも公安警察と刑事警察の「仲の悪さ」が描写されているが、この実際に発生した事件でも、両者の事件へのアプローチの違いが大きくでた。
 その後、公安警察が事件の関わりを指摘していた「平田容疑者」も自首したが、その後警察庁長官事件との新たな関わりは公表されていない。また、ホローポイント弾という特殊な弾丸の入手経路や「戦争でも起せそうな」火気類の入手といった客観的事情からすると、どうも刑事部が真犯人と目していたN(書籍では実名)が真犯人である可能性は極めて高い。法治国家で、しかも自らの組織のトップが狙撃された事件で真犯人を特定できないまま公訴時効というのは、かなり異例の事態だが、その異例の事態を導出した要因をこのルポでは分析している。ひとつは、組織内部で捜査方針がまるで違う2つの部署がお互いの見解を譲らなかったこと。もうひとつは、組織トップの「メンツ」が真犯人の逮捕に優先してしまったこと。この事件の真犯人が「誰か」はもしかすると時間が経過していけば捜査や公判とは別の形で表に出てくる可能性がないではない(公訴時効を迎えたことで容疑者Nとその相方が真実を出版するといったことなどが考えられる)。ただし、真犯人の特定や起訴に至らなかった点については、別の事件で同じように組織内部で対立することがありうる。そのときには一つの反省材料になるだろう。

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