2013年1月17日木曜日

ゾンビ経済学(筑摩書房)

著者:ジョン・クイギン 出版社:筑摩書房 発行年:2012年 本体価格:2600円
 書籍の価格帯で一番内容のあるのが2000円~3000円の枠内かな、と個人的には考えている。「一応」この本もその価格帯なのだが、タイトルの面白さが際立ちすぎて著者のイイタイコトが今ひとつ見えないのが残念。ただ「大中庸時代」(IS-LM曲線で政策運営ができた時代?)→効率的市場仮説(市場はすべてのキャッシュフローを等価値にすると考える時代?)→動学的確率的一般均衡(時間の経過をモデルに取り込んだ時代?)→トリクルダウン(富裕層への減税が社会全体にいきわたると考える時代?)→民営化(サッチャリズムやレーガノミックスといった新保守主義の時代?)と流れをおって経済学の考え方が一覧できる。
 数多くある経済学の系譜の一部をなぞればこういう書籍にもなるのかもしれない。著者の言い分はいずれも学説としては死んでいて、それで結局財政政策と金融政策の適切な組み合わせが大事…っていうことになると原始的なIS-LM曲線の世界にまた戻ってしまうのではなかろうか、と感じたのも事実。また色々な経済学のモデルが現実のさまざまな条件を切り取って構築されているのは周知の事実で、現実に妥当しなかったからといってモデルを否定するのもガテンがいかない。政策投資の乗数効果はケインズが想定していたほど大きくはないといった計量経済学の研究があるが、それではどうして理論どおりにいかないのか、について考察するのもまた実りある研究だろうと素人ながら思う。「ゾンビ」が「ゾンビ」たるゆえんは、やはりそのまま朽ち果てるには惜しい「何か」があるからで、それぞれの学説の一断面を切り取って捨てていくのは、あまり生産的な感じがしない。
 おそらくは著者の専攻が農業経済学というのと関係があるのかもしれない。農産物については、工業製品ほど計画的・安定的に収穫が保証されているわけでなく、また農産物市場は天候など自然現象に大きく左右される。そうした経済市場を研究していると、IS-LM曲線にしたがって農地に投資しても理論どおりに景気が拡大するわけでなく、すべての資産の将来キャッシュフローの割引現在価値を生産者も消費者も予測しているわけでなく、また時間の経過にともなう所得動向などだれも予想ができるわけでない…といった「刹那感」がでてくるのかもしれない。
 オーソドックスな近代経済学をある程度学習してから読むとかなり面白い本だと思う。ただいきなりこの本から近代経済学(主流派経済学?)の世界に入ると、かえって経済学の面白さからは距離をおいてしまうことになるかもしれない。

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