2012年11月20日火曜日

オスマン帝国(講談社)

著者:鈴木 薫 出版社:講談社 発行年:1992年 本体価格:740円
 入れ替わりの激しい新書の世界で1992年に初版発行のこの本はいまだに新刊書店の新書の棚の一角を占める。
 イスラム法の体系を調べる目的で購入したのだが当初の目的とは裏腹に全部読み通してしまう。英米法や大陸法の体系を日本の法律は受けているが、イスラム教信者の絶対数が少ないのに比例して、文化的にも法制度としてもイスラム法の影響など皆無に等しい。たまに携帯電話を盗んだ犯罪者が両手を切断されたなどの報道に「ひゃあ」と驚くだけだが、日常生活と宗教生活をまったく分離しないイスラム国家では、犯罪=神への背信行為となるわけだから、表向きの残虐さはともかくも、理屈としては立派に通っている。
 アラブ地域やイスタンブール周辺の地域は民族も入り混じり、商人もいれば武士もいるので、法律の体系を早く構築する必要があった。もともと「シャリーア」とよばれる宗教的道徳の体系があってそれが法律の体系になるわけだから、お仕着せの官僚主義的な法治というよりも、宗教と一体化した生活感覚のある法律となる。そしてこの本ではそのイスラムの法律体系を維持し、法律問題を処理するイスラム法官(カーディー)とオスマントルコにおけるイスラム法官の整備に、新書にしては珍しくページが割かれている。「体系」とはいってもこうなると文化や生活と表裏一体だから、たとえば日本では六法全書とキヨスクでの買い物はダイレクトにはリンクしていないが、イスラムでは直接的にリンクしていることになる。あ、ここまでくるともう英米法や大陸法みたいに何らかの近代意識みたいなもので統一的に把握することはできず、コーランからず~と肌に染み入るようにイスラム文化を理解していかないと、もうイスラム法の体系なんて理解が難しい…ということが理解できる(理解しようとしても理解するまでには何段階かふまえていかねばならない、ということを理解させてくれる新書である)。で、通史的なオスマン・トルコの歴史的事件なども解説してくれているわけで、やはり価格と比してもコストパフォーマンスはやはり高い名著。イラストや地図が豊富に掲載されているので、日本の景気がもう少し良ければ4色で同じ内容をぜひ読みたいもの。

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