2012年11月12日月曜日

64(文藝春秋)

著者:横山秀夫 出版社:文藝春秋 発行年:2012年 本体価格:1900円
 平成64年。わずか7日間だけ続いたこの年にD県警をおそった史上最悪の幼女誘拐殺人事件。その未解決事件はD県警関係者にも重荷となり通称「ロクヨン」と称された。そして平成14年、警察庁長官がD県に視察予定。広報官三上はその対策に追われることになる…。
 新聞社の若手は一部の経済専門紙を除いて全国の支局に勤務し、警察周りから修行を始める。一部の例外というのは日本経済新聞で、この新聞社の若手はいきなり検察庁担当や経済部などに所属するが、NHKなども含めて警察周りが原則だ。それだけ将来につながるいろいろなスキルを学べる場所ということだろう。20代の若手新聞記者と刑事部から広報官になったこの主人公「三上」。そして警務関係を司る警務部長や県警本部長といった警察庁のキャリア組。必ずしも広いともいえない建物のなかに、出自が異なるノンキャリア刑事部上がりの広報官とキャリア組、ジャーナリスト。それに警務警察(公安警察)と刑事警察の軋轢なども関わってくるから、話はむちゃくちゃ盛り上がる。「踊る大捜査線」でも描かれていたが、自治体警察で警察庁にモノが言えるのは東京の警視庁ぐらいで、ほかの県警ではたてつくこと自体ありえないはず。ただし隠微なかたちで「争い」はあるから、そこに未解決誘拐事件がからんでくるともう一度ページをめくるととまらない。648ページの大部だが、本当に一気読み。広報部(あるいは広報室)が警務関係に属するとかそうしたエピソードも面白い。開けた空間でのミステリーというのもないではないが、息詰まるミステリー展開の醍醐味はやはり閉ざされた空間にこそあるのではないか。そしてその閉ざされた空間が外部に窓を開いた瞬間こそが「物語」の終わりとなる。まさしく物語のラストにふさわしい終わり方で最初から最後まで完成度の高い緊迫した雰囲気がゆるがないのがすばらしい。

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