2012年11月13日火曜日

斎藤孝のざっくり!西洋思想(祥伝社)

著者:斎藤孝 出版社:祥伝社 発行年:2011年 本体価格:1500円
 「ざっくり日本史」「ざっくり世界史」がともに面白く、また歴史の新たな視点を与えてくれたので書店に並べられているのをみて衝動買い。で、後悔なしの良著である。
 西洋思想をソクラテスなどギリシア哲学の「山」、デカルトやカントなど近代合理主義の「山」、そしてニーチェやフーコーなど現代思想に連なる系譜を3つめの「山」として書籍を構成。すでに原稿執筆段階で書籍の世界観が明確になっているので読者も「ここはどこの山の話だっけ」と頭のなかに地図を描きながら西洋史の流れを終える。そして随所に関数fや「理性>身体」といったような数学記号が挿入され、そのたびごとにそれぞれの「山」の違いも認識できる。
 西洋思想がなんの役にたつか…というと日本の社会構成も少なからず西洋思想の影響を受けており、たとえばそれは民法や会社法といった法律の随所にうかがわれる。法律の条文1条目にはたいてい立法趣旨なるものが規定されているが、これ、プラトンのイデア論とか理性への探求(カント)みたいな理想への憧れみたいなものが感じられる。現実はたいてい法律の趣旨には適合しないので、そうしたときにどうするか…というと法律では判例がその指針を示すが、西洋思想ではメルロ=ポンティの身体論みたいなものになってくる。文章で構成される法律が実際に解釈されて運用されるときには生身の人間を考慮しなければならない、なんて2つめの「山」と3つめの「山」の関係に近い。思想だけ趣味的にかじっているとどうしても全体像がつかみにくくなってくるが、会計学でも法律でもおそらく西洋思想に日本文化をミックスされた形で現在の規定は作成されているので、「なんかうまく運用がいかない」といったときにはその源に立ち返って考えるのが、おそらく一番の近道になる。
 主観的産物である複式簿記の世界なんて、まさに関係性の世界だから、ひょっとするとソシュールとかレヴィ=ストロースの世界のほうが、ルカ=パチオリの技術的な書籍よりも、ずっと思想的には近いものになるかもしれない。

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