2012年10月1日月曜日

督促OL修行日記(文藝春秋)

著者:榎本まみ 出版社:文藝春秋 発行年:2012年 本体価格:1150円
 昔はたしか金融系の情報ネットワークは銀行系、信販系そして消費者金融系の3つがそれぞれ別個にあったと記憶している。現在は統合化されているが、著者は信販系のコールセンター(債権回収)業務をつとめる。ほとんどの人間が途中で脱落していくなかで、周囲の先輩やら同僚やらの電話のかけかたをみて創意工夫し、さらにセミナーにかよって自己研鑽を積む…なかなかできそうでできる技ではない。しかも入社当初は朝7時出勤夜11時退社って…。
 途中まで読んで「こりゃ、著者は辞めたんだろうな」と思い込んでいたら、なんと今でも債権回収業務をやっている。金融というと、どうしても貸付がメインのように思えるが、実際には利息込みで回収して初めて金融業務が完結する。その意味では、銀行などの2階で稟議書を書いている人やカードの販売をしている人が入口で、ちょうどこの本の内容が「出口」。会計学でいうと金融商品会計基準に「譲渡人が自己の所有する金融資産を譲渡した後も回収サービス業務を引き受ける等、金融資産を財務構成要素に分解して取引することが多くなる」と規定されているが、なるほど、たとえば金融資産(クレジット債権など)を他社に譲渡することはできても、その回収業務は譲渡人が継続することが多いという理由もわかる気がする。クレジット債権そのものを格安で都市銀行や地方銀行が取得してもそれを現金化するノウハウは信販会社などが有している。その意味では、クレジットカードを作ることが容易になってきた時代、債権回収業務にたずさわる著者の業務は、デフレ不況の現在「花形」ともいえなくはない。
 で、このコールセンターでも回収が難しくなった不良債権だが、金額が50万円以下などであれば簡易裁判所から支払督促という法的手段になるのではないかと思う。ただ金額が金額だけに簡易裁判所に申し立てして内容証明郵便を送付して…と手続きが煩雑なわりには、利息分の収益がふっとぶくらいの法的コストがかかりそうだ。「話し合い」でなんとかなるものならば、コールセンターで回収したい、という信販会社の思いが伝わってくるようだ。
 こういう仕事、昔は確かに体育会系の男性がメインだったような気がするが、債務者の感情を忖度して入金までもってくるプロセス。意外に20代の女性のほうが本来的に向いているのかもしれない。

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