2012年10月8日月曜日

イスラム文化~その根底にあるもの(岩波書店)

著者:井筒俊彦 出版社:岩波書店 発行年:1991年 本体価格:660円 評価:☆☆☆☆☆☆☆
 イスラム教やイスラム文化についてはビジネス書籍でも取り上げられることが増えてきた。いわゆるジャスミン革命や、あるいはイスラム過激派のテロ、さらにイランの核開発問題やyoutubeにおけるムハンマドを侮辱したかのように受け取れる動画への抗議運動と反米デモ。底流に流れているのはイスラム教だが、ではその「底流」はどのように現在の国際情勢に影響を与えているのか。ビジネス書籍では与えられれない文化の違いや考え方の違いなどをこの本から窺い知ることができる。
 経済団体への講演会を1冊にまとめた本で、学問的にはすっぱり割り切れない部分を理解優先で著者が講演し、それを書籍化するにあたって加筆したとのこと。3時間の講演会がこうして文庫本になり、2012年4月16日でなんと第33刷。イスラム教はユダヤ教やキリスト教などと同じく一神教で、セム系の宗教観という点で共通。アブラハムやモーセ、イエス・キリスト教なども預言者として数えられており、そこまでは対立する必要はない。ただしキリスト教がたとえば現実世界と宗教問題というように世界を二元化して考えるのに対してイスラム教はすべて一元的に物事を考えていこうとする。食事や掃除といった日常生活も宗教生活の一部であるため、ウェブの世界も宗教の一部として考えているのではないか。アメリカや日本などでイエス・キリストをパロディ化したり仏教などについて辛辣な意見を述べても、言論の場と宗教の場が切り分けられているために、それがもとで発言者に対してテロがおこなわれることはめったにない。しかしイスラム教はこの本によるとすべてが宗教生活でイスラム教でいう来世への思いが人間の行動原理となる。そうなるとウェブであろうと小説であろうと、それを放置しておくことはアラーの神に対してイスラム教徒が「真摯」ではない、ということになりかねない。
 表面的な話し合いというのは、神への人間の位置づけに関する考え方がキリスト教やユダヤ教とイスラム教とでは基本的な部分から異なるため、お互いの生活習慣の位置づけが違う、ということから考え直さないとそもそも「話し合い」の前提条件すら成立しないのではないだろうか。新聞にあふれるイスラム関係の記事を読み解く基本中の基本の書籍に本書はあたると思う。すでに名著の誉れが高い本だが、あと10年も20年も30年も増刷が続きそうだ。

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