2010年9月23日木曜日

だまされ上手が生き残る(光文社)

著者:石川幹人 出版社:光文社 発行年:2010年 本体価格:780円 評価:☆☆☆☆
 タイトルでずいぶん損をしているような気がする。本屋さんでぱっと手にとる効果はあるが、内容とタイトルがうまく対応しているかどうか…。むしろ副題の「入門!進化心理学」を前面に出したほうが長期的には得策だったような気が。遺伝情報は多様化するといった基本原理を紹介し、原始生物の時代からいかにして学習するのかを解明してくれる。原始生物がエサや栄養を見つけた状態を「快」とすると、そのときの「(細胞同士の)接続が強化」されて、学習の仕組みが獲得される。人間になってもいわば「快適さ」が行動を変えて学習していく仕組みは同じ。必要な機能となる接続が強化されてそうでない接続は退化していくという仕組みだ。
 これをさらに発展させて考えていくと「心地よさ」が学習につながるのであれば、多少真実とは違っても「だまされても心地よい」と感じれば学習効果がでてくるということになる。そのほか疫病などの免疫システムを作るのにはオスとメスの両方が存在したほうが遺伝子を変えていくのに効率的であるなどの理論が紹介され、さらに「遺伝子がすべてではない」という前提を繰り返し著者はメッセージすることで、生物学的な一つのものの考え方を提示してくれている。「社会的な掟」にも一定の理由があるという明確な説明もあり、こういう本が昔からあれば太宰治の人生なども相当違っていたに違いない、などとふと思う。

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