2010年9月18日土曜日

新聞消滅大国アメリカ(幻冬舎)

著者:鈴木伸元 出版社:幻冬舎 発行年:2010年 本体価格:760円
 サンケイ新聞が記事の一部を無料公開しているIZAなどが顕著な例だが、日本の新聞社でも新聞記事を無料であるいは有料で公開しているケースが増えた(日本経済新聞はコンテンツを有料で公開)。アメリカの新聞社は地域密着型の新聞社が多いが日本の四大新聞は全国紙で地方紙でも一県に一社というのが相場。したがって経営状況の悪化とはいってもアメリカと日本では様相が異なってくるが、新聞のコンテンツをウェブで公開した場合、自宅に配送してもらう新聞購読をやめる家計や会社も当然減少してくるだろう。特にリーマンショック以後は個人も企業も消費を抑制気味なので、ただ単に情報を入手するだけならば、ウェブであっても別に問題はない(社説やコラムなどは読めなくなるが)。
 アメリカの新聞社を調査したこの本だが、地域社会に根付いた新聞社が消滅することで地方の民主主義が衰退していくというマイナス面が指摘されている。確かに新聞社が淘汰されて地方紙が消滅していくケースが将来発生した場合、日本でも地方議会や行政の民主主義や住民のチェック機能は働きにくくなるだろう。ただし地方の情報配信に特化したサイトが立ち上がればそうした問題点は解決するわけでもあるのだが。
 
 情報を取材する一部の新聞記者とただその情報を流通させるだけのウェブというすみわけになった場合、というよりもそうなる可能性が高くなるが、ジャーナリズムの形態も少数の会社員新聞記者と多数のフリーランス新聞記者という形に2分化していくのではないかと個人的には感じた。印刷して配送するよりも新聞記者の携帯情報端末に記事を入力してアップロードさえすれば緊急記事もすぐ大多数の目に触れることになる。いわゆる「特種」というのも、今後はウェブ配信がメインになる可能性は高いだろう(芸能記事はすでに芸能記者の取材よりも芸能人の個人ブログの配信というケースがすでに生じている)。いわゆる記者クラブが抱える問題点も官公庁のウェブ配信と情報公開法の2つの要因で自然消滅していくと推測される。ただしそのケースであっても「自分たちの組織には不利な情報だから隠蔽しておこう」というケースでは、フリーランス新聞記者が登場することになる。独自の人脈とテーマを抱え込むフリーランス記者のケースではほとんどはお金にもニュースにもなりえないが、特種や取材対象に食い込んでいくルポなどではウェブ時代になっても強みを発揮するだろう。ただ、そうしたケースでは「新聞記者」というよりも『フリーランスのジャーナリスト」というもっと広いカテゴリーで職種をとらえていかなければならないが。

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