2010年9月23日木曜日

永遠の0(講談社)

著者:吉田尚樹 出版社:講談社 発行年:2009年 本体価格:876円 評価:☆☆☆☆☆
 現在大手書店のほとんどで平積みになっている文庫本。司法試験浪人生の「わたし」は姉とともに、祖父の海軍時代の知人を訪ねて、太平洋戦争の歴史をたどっていく。ガダルカナル、ラバウルをへてついに祖父は鹿屋基地へ。鹿屋といえば、神風特攻隊が出撃した基地として有名だが、それまでかたくなに「生きること」に執着していた祖父は突然神風特攻隊に志願する。その理由はなぜか…。すでに8月15日は毎年なぞられていたはずの日本海軍の歴史が個人の歴史を追う形で再現され、さらに下士官内部の階級意識や備品よりも軽んじられた兵卒の苦渋があぶりだされていく。イデオロギッシュな問いかけは新聞記者の「高山」が場違いに発して読者をミスリーディングしないように配慮され、物語は終戦後の歴史から現在にまでたどりつくという見事な構成。これはやはり日本人ならばだれもが手にしておかしくない小説だ。

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