2010年9月7日火曜日

怖い 絵2(朝日出版社)

著者:中野京子 出版社:朝日出版社 発行年:2008年 本体価格:1800円
 価格はやや高めではあるものの中身が面白いので気にならない。表紙はファン・エイクの「アルノルフィニ夫妻の肖像」。どれも面白い解説の本だが個人的には図解されたエッシャーの「相対性」の解説が面白い。3つの世界が同じ建造物のなかで交錯するという仕組みをわかりやすく解説してくれている。映画や写真がなかった時代、あるいはあったとしても単に現実を切り取るだけでは創作意欲を満足させることがなかった画家たちの巧みな仕掛けを中野京子氏が独特の視線で読み解く。単に綺麗だとか神話からモチーフをとったというだけではなく、人間の「業」みたいなものを絵画からつむぎだして、ひょっとしたら画家の本意ではないかもしれない別の「怖い物語」をつむぎだしてしまうのだから、これはまたすごい才能だ。絵画から別のオリジナルの解釈や物語をつむぎだす才能。これはこれでまた怖い才能ではないかと思う。
本の装丁もまた美しいが、タイトルのつけ方がまた絶妙。新聞では「怖い絵」として紹介されているが、実際には「怖い」と「絵」の間に全角アキの空白がある。「怖い 絵2」というのが正式なタイトル。この空白一文字分に読者の思い入れをこめることもできるし、作者の語りつくせない物語を読み取ることもできる。なんともいえないこの空白がまた「怖い」。

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