2010年9月23日木曜日

名門高校人脈(光文社)

著者:鈴木隆裕 出版社:光文社 発行年:2005年 本体価格:950円 評価:☆☆☆☆
 かつて公立高校の一部は旧制中学の系譜をつぐ伝統校として地域社会に存在していた。今でもその名残は多少なくはないが、多くの都道府県では教職員を一定期間の間に配置転換するため、私が高校生だったころのように奉職35年とか40年とか学校と一体化して存在しているような教職員は今では存在しようがない。学校は生徒と教職員が一体となって一種の校風を作り出すが、カリキュラムなどデジタルなものは後の世代に引き継ぐことができても、数値化しにくいアナログなものは人と人とで相互に伝承しあうほかない。一定期間の配置転換はそうしたアナログな伝承形態を不可能にしたが、公立高校が長期低落傾向にあるのは、私立が教職員を定年まで確保し生徒を教育することが可能であるのに対して、公立は毎年毎年人間が入れ替わるため「建物」だけが引き継がれて中身は毎年流動的になっているためではないかと思う。これは日教組のせいではなく、むしろ教育委員会のほうに問題があるだろう。
 さて、この本では公立高校・私立高校・国立高校の3つに大別して各都道府県の名門校と卒業生の有名人を紹介している。いや、本当に名門っていうのはすごい。「この人とこの人が同じ高校だったのか」「この人は受験学校にいたのか」という驚きの連続だ。こういうバンカラ的な気風と管理教育はまったく相反するものになるのだが、はたして管理教育がどこまで成功するのかはこの本を読むと疑問。概して高校卒業後になにかしらクリエイティブな作業をしている人は大学を中退したり高校も中退したりとけっこう派手な青春時代を送っているし。
 高校生活に悩める人もこれから高校を受験する人も、「バンカラ」「旧制中学」と現在のありかたを比較検討して進路を決める方法もありだろう。残念ながら受験勉強そのものはもう私学にかなり勢力をうばわれているが、それでもなおかすかに残る伝統の気風がもし自分にあうと思ったのなら、そうした「名門高校」で3年間を過ごすのはかなり有意義なことではないかと思う。

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