2009年7月30日木曜日

「悩みグセ」をやめる9つの習慣(大和書房)

著者;和田秀樹 出版社;大和書房 発行年;2009年
 自分でいうのもなんだが「非常に悩みやすい」性格だ。「これで万全」と言い切れるのであれば別に問題はないが、たいていの場合、「9割はそうだろうけれど1割はどうかなあ…」という悩みは常にある。
 で、手にとったのがやはり和田秀樹先生の本。いきなり「自分は性格が悪い」と断言する和田先生の本だからこそ、自分にとっては即効性がある。私だって相当に性格は底意地が悪い。
 そこで9つの習慣だが、「自分も他人もほめる」「白黒つけずグレーでいく」「わかってくれると思わない」というあたりがけっこう参考になる。他人をけなす人のほうが世の中には多いし、ま、そのほうが面白いわけだが、より生産的に生きるのであれば他の人の長所をみつけてそれを真似するのが一番自分自身の生産効率を高めることになる。また2分割思考で世の中を割り切ってしまうと、その間にある種々雑多なものがすべて捨象されてしまう。これじゃ、世の中面白くない。そして「わかってくれると思わない」。メールやウェブなど電子媒体は発達したが、言葉や態度だけですべてが伝わると思うのはやはり大きな間違いで、メールであっても真意の10パーセント、あるいは反対の意思表示にとられることだってある。わかってもらえる量のほうが少ないのだから、わかってもらえるように色々な手段で明確に情報発信しなければならない。もちろん、それにだって限界はあるのだけれど。
 哲学的な話も役にたつが、かといって生きるためのスキルや心構えのちょっとしたコツなんてものはやはり馬鹿にするべきでない。ほんの少し考え方を変えるだけでかなり生きることが楽になることだってたくさんあるのだから。

2009年7月29日水曜日

お金は銀行に預けるな(光文社)

著者;勝間和代 出版社;光文社 発行年:2007年
 リスクを考慮してリターンを積極的にとっていく方法を指南してくれる本。むこうみずにリスクをとるのではなくて、回転売買の危険なども説明してくれており、要は「考えろ」というメッセージがこめられた本というべきだろう。投資を奨励するというよりも投資信託の手数料もふくめてすべてリスクを計算してそのリターンがリスクを上回るのであれば、リスクをとる勇気をもつべきだというまっとうな議論。一応金融商品がメインだが日々の生活でもリスクとリターンの関係を考慮していくのには、非常に有意義な内容といえるだろう。個人的には生命保険の定期逓減型商品を選ばれた理由が好ましい。「なんのための生命保険か」ということを考えると、受取額は高齢になればなるほど少なくていいわけだし。
 車を買わないという提言ももっとも。これで節約できるキャッシュ・アウトは大きい上、自転車の売上は伸びる傾向にある。病気というリスクとたたかうのに自転車通勤など運動をかねた移動方法が見直されてもいい。いきなりこの本だけを読んで投資活動をする必要性はないけれど、人間の行動なり発言なりにはすべてリスクとリターンがからんでいると思えば、日々の生活行動にも活用すべき文章や教訓が満載。

2009年7月26日日曜日

脳を活かす仕事術(PHP研究所)

著者:茂木健一郎 出版社:PHP研究所 発行年:2008年
 「完成度の高い仕事には拡散と収束が共存」している…というのは最初なんだかな、と思ったが、実体験を積んでみるとなるほど、と思う。完成度が高い仕事、私なりにいえば論点が凝縮されて説明や理由付けがしっかりしている仕事は、遠くから離れてみた俯瞰的な観点と小さく細かく見ていく詳細な観点と両方を必要だ。俯瞰的な観点からするとexcelが有効なツールになりうるが、詳細な検討という観点ではアナログなチェックが欠かせない。両方そろって全体のバランスがとれた仕事が完成度の高い仕事ということになる。また「経験×意欲+準備」という公式もかなり有効なツールで、意欲も経験もない仕事の場合には準備をかなり入念にやることで完成度を高めることができるし、経験が積んである仕事の場合には、意欲がなくてもある程度まではまかなえることもわかる。また偶然性(セレンディピティ)というのはまだ科学的な説明はされていない現象ではあるが、「行動」して情報や知識に「気付いて」、さらに「受け入れる」という3つの状態でセレンディピティがうまく発揮できるというのも納得。偶然にみえて実は必然に近い偶有性というのは当然現実にありうる。論理的に考えて「こうなるはずだ」という気付きはもはや偶然ではなくて必然に近い。それを活用するのもしないのもセレンディピティを理解しているかいないかの違いとなってあらわれる。
 細かなスキルではなく、むしろ細かなスキルに通じる脳の根本的な「現象」(というか機能?)についての仮説を提示する本。「根拠なき自信」も有効性なども含めて著者の独断もおそらく相当あるとは思うが、現実の場面で有効利用できる著述が多く、「生活術」と並んでお勧め。

脳を活かす生活術(PHP研究所)

著者:茂木健一郎 出版社;PHP研究所 発行年:2009年
 「こら大変なことに…」と思ったときにけっこう今月役にたった本。日常生活やビジネススキルの書籍としても読めるが、危機管理の本としても非日常的事件に遭遇しても使える内容だと思う。
 「自分を笑う」ことによって、「自己回復」や「メタ認知」といった機能が発揮されるということ、プライドを手放すことで空白になった部分に別の要素が入り込んでくること、記録することで記憶や思考が意味を持ち経験へと熟成していくこと、自分が変われば記憶の解釈も変わること、新しいことに挑戦することで脳のシナプス構造をかえて活性化できること、何かをするために何もせずに「待つ」こと、どのように変化するかわからない偶有性を活用し、楽しむこと。
 特に偶有性を楽しむという概念はともすれば安定化志向になりがちな自分にとっては有効な概念で、この本といえば「偶有性」とイコールになるぐらい自分のここ数ヶ月の中では有効に活用した概念である。
 将来は常に変化し、自分はその不安定な中で動き回るしかないのだが、それを避けるのではなく、むしろ楽しんでいくという姿勢こそが「脳を活かす生活」ということになりそうだ。

影響力の武器(第二版)(誠信書房)

著者;ロバート・B・チャルディーニ 翻訳:社会行動研究会 出版社;誠信書房 発行年:2007年
 カバーの色が独特で書店では地味な扱いだが、それでも確実にロングベストセラーになりつつある社会行動学の本。多様化する現代では「こういうことがあれば、こういう行動で…」という固定的行動パターンが主になっており、それを利用した「影響力」の行使がある、という流れ。たとえば「コミットメント」という章を読むと映画「イースタン・プロミス」で自分たちの組織に加えるべきかどうかという面接で刺青を調べる儀式があったのを思い出す。覆面捜査を防止するために、体中に理由のある刺青を彫ることによって、その忠誠心を試すと同時に「ここまでやったのだから」という脱退などの行動を防止する。これがコミットメントで、なんらかの投資や博打を始めてなかなか抜けれない理由もこれでよくわかる。「社会的証明」というとやはり権威のある学者のコメントがあると新聞記事がかなり「格上げ」されて見えてしまうという効果があるだろうか。これは「社会的証明」のほかに「権威」という要素も含んでいる。そしてスーパーや百貨店などでよく利用されているのが「希少性」。人間は希少性が強調された商品にはかなり購買意欲がそそられる。その典型的事例は「ウェブでも量販店でも販売していないスピーカーで限定20台」という広告をみたときに実感した。「今、ここで」決断しないとこのスピーカーは入手できないかもしれない…という購買意欲をそそる方法だ。
 購買や消費をメインとしたこれらの手法については著者は「本当にいい商品であるならば」その影響力の行使の正当性を認めるが、あくまで「不当な場合にはノー」という権利と知識を訴えることにテーマがおかれている。だから消費者として行動する場合にも販売業者として行動する場合にも「本当はどうあるべきなのか」という倫理感をもってこの本を読むべきだろう。
 章立てがしっかりしているので、この本の内容をチャート化して、現実の事象を「これは希少性を利用したもの」「これは社会的証明を利用したもの」と分類の指標にもできる本。翻訳もわかりやすく歯切れのいい日本語で読みやすい。さらに膨大な参考文献が巻末に付録されているのが印象的だ。

名もなき毒(光文社)

著者;宮部みゆき 出版社;光文社 発行年;2009年
 吉川英治文学賞受賞のミステリー小説。もともとは2006年に幻冬舎から発行された作品が新書サイズで発行されたもので、さらには「誰か」に続くシリーズものの続編に相当する。社内報の編集部でアルバイトの女性を編集補助として雇うが、その女性はかなりのトラブルメーカーで「毒」を職場にまきちらしていく…、そしてその一方で青酸カリによる無差別連続殺人事件が続く…という構成。土壌汚染防止法が制定され、現在でも築地市場の移転問題にからめて土壌汚染が議論されているが、この問題の解決が生易しいものではないこと、そして家庭の問題や会社組織の問題などがリアリティをもって小説の中で再現されていく。一歩間違えればおそらくこうした事件と似たような事件が発生する可能性はあるし、ミステリーといいつつも、現代の抱える「病」(=毒)を一冊に集約させた文学作品ともいえる。読んでいるうちに内容に引き込まれていくのは、著者の筆力ももちろんのこと、「事件」の背後にある「毒」は読者の生活の中にも突然噴出してくる可能性がある「毒」ばかりだからだろう。

1分間をムダにしない技術(PHP研究所)

著者;和田秀樹 出版社;PHP研究所 発行年;2009年
 「目的」を明らかにして、目的に到達するために効率的な手法をいろいろと工夫してみる。その工夫の仕方を著者なりにまとめたものがこの新書ということになる。和田秀樹さんの大ファンで、一時別の著者の書籍集めに奔走したが、最近では再び新刊を手にするようになった。いろいろと日常生活で「大きな変化」が相次いだせいもあるが、日常生活でも非日常生活であっても「小さな工夫」の積み重ねが案外、大きな効果を生み出すものだな、と再認識したせいもある。仕事の順番を工夫してみるとか、質より量を重視するためにレコーディングしてみるとか、いずれも小さな工夫ではあるけれど、1年間をまめに過ごせばけっこう大きな成果に結実する。30代のときにはまさしく和田流で生活スタイルを統一してみたら、やはりそれなりの「結果」につながった。
 で、実際には「1分間」にあくせくする、という内容ではなく、小さなことをいかに大きなことに結びつけるかというテーマが背後に隠れており、けっして24時間毎日をギチギチ生きるという内容ではない。「楽しみの時間」を用意しておくなど、要は「工夫」をあれこれがあれこれ盛り込んであり、それを読者が読者なりにカスタマイズしていけばいいという内容になっている。こういう認知科学的なアプローチで説明され、しかも「自分自身はもともとルーズでダメだった」などと「告白」されてから説明されると、読者としてはすぐにも実践したくなるような構成になっている。面白いし、なおかつすぐに生活に取り込むことができるのがこの著者の作品に一貫しているメリットか。

天才!(講談社)

著者;マルコム・グラッドウェル 訳:勝間和代 出版社:講談社 発行年:2009年
 統計学的に正規分布から大きくはずれた値をしめす「アウトライアー」、いわゆる「天才」はどうやって生み出されてきたのかを分析する本。もちろん努力や素質も必要な条件ではあるが、「環境」「時代」をとおして分析してみるとどういう仮説が導き出せるかを検討した本。あくまでこの本で提出されているのは仮説にすぎないが、企業の破産事件などを扱うユダヤ人弁護士の成功は、「長年、ある技能に磨きをかけてきたところ、それが、とつぜんとてつもなく重要になったというわけだ」(148ページ)という結果になる。自分が想像している以上に「生まれるタイミング」や環境が重要な因子であり、さらに「10,000時間の法則」により、10,000時間の鍛錬が一つの技能を高めるという前提にたてば、ハンブルグ時代のビートルズもこの10,000時間の鍛錬をこなす準備期間だったと分析される。
 10,000時間の恩恵を受けられるか受けられないかが、一つの分岐点になるわけだが、読者としてとれる行動は2つある。仮説を受け入れて、自分にとっての「好機」を探索すること、そしてもう一つは、「才能に磨きをかけて10,000時間を費やす努力をすること」。無力感におそわれる読者もいるかもしれないが、著者はけっして「天才」の出現が「環境」「タイミング」にすべて由来するとは考えていない。いかに「10,000時間の鍛錬」を特定のスキルにかけることができるかどうか…が分岐点と考えているのだ。タイトルは「天才!」だが、けっして達成不可能な目標ではない、ということもこの本を読むとわかってくる。

2009年7月20日月曜日

ザ・ゴール(ダイヤモンド社)

著者:エリヤフ・ゴールドラット 出版社;ダイヤモンド社 発行年:2001年
 この本はすでに2002年には購入。その後7年間放置しておいたのだが、ちょっとしたきっかけで読み始め、一気に読了。「小説仕立て」で「制約理論」を説明…というのが、先入観で「そんな世界に入れない」と思い込んでいた。が、最初の20ページの世界に引き込まれれば「ボトルネック」(制約条件)をいかに発見して、いかにその能力を引き出すかといった「実践」の世界になる。しかもアドバイザーは明確な指示を出さずに基本的には「登場人物が考える」(=読者が考える)という構図になっているので、「自分だったらどうやって在庫を減少させていくか」「どうやってお金を稼ぎ出すか」といった自分自身の問題に置き換えて読んでいくことができる。小説の中では顧客の注文を受けてロット別に個別受注生産を行う架空の工場が舞台だが、これをサービス業の現場や市場見込生産のメーカーに置き換えても汎用できる部分が多くでてくる。そしてそれこそが著者の目論見どおりの結果となる。
通常の「制約条件」だとだいたいグラフがでてきて、2本~4本の直線がグラフ上で交差。その交差点のいずれかで生産を行えば「最大の利益」が達成できる…となるわけだが、現実はそんなに簡単に線形グラフが描けるわけではあるまい。複雑な業務の中に「制約」を見つけて、それを有効利用し、さらに設備投資や人事配置なども含めて制約条件の最大効率化を図る…最終的にはその「考え方」を一般化していこうという試みにまでこの小説は進んでいこうとするのだが、残念ながら「汎化」についてはページ数が足りなかった模様。しかし、「続編」があるので、「思考の汎化」についてはおそらくPART2でページ数がさかれているのではないかと期待。
 

2009年7月19日日曜日

会計の時代だ(筑摩書房)

著者:友岡 賛 出版社:筑摩書房 発行年:2006年 評価:☆☆☆☆☆
 「面白おかしい」というタイプの入門書ではない。世界史的なアプローチをとり、しかも割りと平易な文章ではあるが、学者らしく緻密に検討されたうえでの「平易な著述」ということになる。stewardship accountabilityについて説明されたあと、近代会計制度の成立という概念をかみくだいて説明してくれる。「現代会計」の世界に生きる人間にとっては「近代会計」というのは成立しているのが「あたりまえ」の状況だが、近代があって現代がある。発生主義と期間損益計算という2つの概念が「近代」に生まれ、英国とオランダ、そして産業革命と固定資産、発生主義の関係が明らかにされる。取引の2面性を記録・計算・整理する複式簿記のメリット、さらにラテン語印刷が基本とされた時代にイタリア語(俗語)で印刷された「ズムマ」が実用書として複式簿記伝播の原動力となっていく様子がダイナミックに描写される。そして監査の専門家(知的な専門職)の誕生へと著述は流れ、監査、会社法の成立へとページが進む。けっして平易な「コンテンツ」だとは思わない。しかし高度な内容をこの新書サイズでコンパクトにまとめた功績は大きい。新書でこうした会計史に触れることができるのもまた印刷のおかげ、か。

2009年7月12日日曜日

整理HACKS!(東洋経済新報社)

著者;小山龍介 出版社;東洋経済新報社 発行年;2009年 評価;☆☆☆☆☆
 デジタル化時代の前には「書籍」や「書類」を捨てるという発想がなかなかできなかったが、今ではデジタルに取り込んだものはどんどん捨てるようになってきた。アナログ文化では一度捨てたものを再び入手するにはあらゆる意味での収集コストがかかるので場所代が犠牲になっても捨てるわけにはいかないモノが多すぎたのだが、時代は変わり、今ではデジタルデータですらサーバに送り込んだらHDDから削除してパソコン内部のスリム化を図るようになってきている。膨大なデジタルデータも自分の頭の中で整理しきれていないものはあまり意味がないわけで。
 パソコンの使い方だと企画書や報告書などのテンプレートをレファレンスファイルというフォルダにまとめておくと便利だとか、「capture it」というソフトウェアが興味深い。capture itはprintscreenをさらに簡便化したようなソフトだが、取り込んだファイルをJPEGで一つのフォルダにまとめてくれるというのが便利。また生活のハssクスでは「迷わず同じものを購入する」という方式が確かに便利。消耗品ほど購入頻度が多いわけだが、高価な家具を購入するわけではないので、消耗品の購入で時間を潰すのは確かに無駄。生活のちょっとしたアイデアをそのままあちこちに取り込んで便利に使いこなそうというこの著者のHACKSは同じような趣旨の本が多数出ている中でも秀逸。「レピュテーション戦略」という独特のイメージ戦略の具体化も個人的に再現性が高く非常によんでて納得し、さらに現実の場面で応用が利きやすい。