2009年7月26日日曜日

名もなき毒(光文社)

著者;宮部みゆき 出版社;光文社 発行年;2009年
 吉川英治文学賞受賞のミステリー小説。もともとは2006年に幻冬舎から発行された作品が新書サイズで発行されたもので、さらには「誰か」に続くシリーズものの続編に相当する。社内報の編集部でアルバイトの女性を編集補助として雇うが、その女性はかなりのトラブルメーカーで「毒」を職場にまきちらしていく…、そしてその一方で青酸カリによる無差別連続殺人事件が続く…という構成。土壌汚染防止法が制定され、現在でも築地市場の移転問題にからめて土壌汚染が議論されているが、この問題の解決が生易しいものではないこと、そして家庭の問題や会社組織の問題などがリアリティをもって小説の中で再現されていく。一歩間違えればおそらくこうした事件と似たような事件が発生する可能性はあるし、ミステリーといいつつも、現代の抱える「病」(=毒)を一冊に集約させた文学作品ともいえる。読んでいるうちに内容に引き込まれていくのは、著者の筆力ももちろんのこと、「事件」の背後にある「毒」は読者の生活の中にも突然噴出してくる可能性がある「毒」ばかりだからだろう。

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