2011年4月4日月曜日

アジアの隼(講談社)

著者:黒木亮 出版社:講談社 発行年:2008年(文庫版) 本体価格:1048円 評価:☆☆☆☆☆
先物取引の難しさは「安く仕入れて高く売る」という通常の商品の仕入れと売上げの流れが逆転しているからではないかと思う。「高く売ってから安く仕入れる」といった通常とは逆の時間軸で取引ができるのが先物取引の本質ではないかと思う。それに付随して差金決済ができるとかどうとか…といった流れになるのではないかと思うのだが…。で、この「アジアの隼」では、ドイモイ政策で海外投資先として脚光を浴びつつあった90年代にベトナムに駐在所を設置しようとする何某長期信用銀行の銀行員の活躍を主軸におき、タイ通貨危機などの国際金融の流れとプロジェクトファイナンスの動向をストーリーにからめて物語が展開していく。この物語に登場する架空の長期信用銀行は実在したかつての長期信用銀行のうち2つの銀行のエピソードを合体させた銀行のようだ。不動産投資を優先して資本市場のスキルや人材を育成しなかったのは実在した旧長期信用銀行と同様だが、細かな人間模様は「長銀」と「日債銀」の抱き合わせ。そしてそこに香港の地場証券会社のエピソードやベトナム政府の公共発注事業のエピソードもからむ。まあこの本を読めば、産業金融とは何か、プロジェクトファイナンスとは何か、ベトナムの歴史、パキスタンの外交や内政、インドネシアの歴史、サプライヤーと銀行、総合商社の共同プロジェクト、エネルギー問題といった種々のテーマが立体的に理解できる構図になっている。恋愛エピソードがからんでくるのが個人的にはやや「イヤ」だったが、これは人によって好き好きはあるだろう。キーワードの一人歩きではなく、東南アジアの食生活や文化をからめた「生きた経済」がこの本では展開されている。

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