2009年4月29日水曜日

お金の思い出(新潮社)

著者:石坂啓 出版社:新潮社 発行年:2000年 評価:☆☆☆
 文庫本の盛衰は激しいのでもう新刊書店では入手しにくい本かもしれない。しかし漫画家として成功する前の石坂啓さんの青春ぎゅっと凝縮されているきわめて面白い本である。石坂さんが手塚治虫プロダクションで働いていたことは有名だが、当時のアニメーション部と漫画部の様子や、マクドナルドでのバイト体験、セールス体験、70年代のファッション感覚、イラストで図解されているかつての住まいの様子、新しい仕事をはじめて30歳目前までの仕事中心の生活への変換の様子が活き活きと描写されている。だれにでもある「お金がない」という状態。そしてその中でも楽しく過ごせた時代というものを思い出させてくれる。人間関係のあり方や社会生活の基本にも役にたつ部分が多いと思う。
 携帯電話がなくてもコミュニケーションが深くつながっていた時代はまた今の時代とは異なる人間関係の深さがあったのだと思う。最近、下北沢の芝居のパンフレットに石坂さんのイラストが印刷されていたが、「その理由」のこの本を読んで氷解。おそらく演劇好きの石坂さんは今でもきっと下北沢に頻繁に出没されているのだろう。

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