2009年4月7日火曜日

模倣犯 上・下巻(小学館)

著者:宮部みゆき 出版社:小学館 発行年:2001年
 映画化・ドラマ化もされたこのミステリーの名作かつロングセラー作品をこれまで読んだことがなかった。が、やはり一気に最後まで読み通してしまう。ストーリーの巧みな構築や社会現象の取り込みはやはりさすが。そして伝統的な推理小説によくある「名探偵」がすべてを解決するという推理小説ではなく、いずれも現実の目の前の世界に苦しむ平凡でかつ善良な人々の集まりだ。その中に突然出現してくる「悪」。ドラマの枠組みは「あくまで平凡な人たち」が時には対立し、時には協調しながらラストに向かってひたすら行き続けるというプロセスを描く。登場人物はいずれも「何か」を探求しているのだが、だれも独自ではその「探求」の対象をみつけることができない。最終的には人々の「集合知識」がすべてをラストにまで導く。一応の「解決」というかラストにはたどり着くのだが、読者が茫漠たる思いにかられるのは、必ずしも「悪対善」といった二元対立ではすまない人間関係が凝縮されているからだろう。「解決」といえばとりあえずは「解決」しているのだが、「未解決」になっている部分も多い。この登場人物はこの先の人生をどうするのだろう?他の残された遺族はどうなるのだろう?…。ここに描写された凡庸で一般的な登場人物の中に超然とあらわれるのが、冒頭から明らかにされている「犯人」だ。完全とも思えるその手法と冒頭では不可解な「動機」は、ラストに向かうに連れて徐々に明らかになっていく。そしてタイトルの理由も。社会の枠組みの中で精一杯生きようとしている平凡な生活の前にもし凶悪な犯罪者があらわれて、その生活を壊されたならば…。だれもがもつそうした不安を掬い取り、それでも「なお再生して生きながらえなければならない」という著者のメッセージをラストに感じる。生きるエネルギーが弱ったときこそこの推理小説はお勧めだ。未解決なことは未解決なこととして、それでも一つの区切りは迎える。そして一定の探究心と寂しさを抱えつつも登場人物も読者もその翌日をまた生きていかなければならない。推理小説というよりは一種の哲学的な小説のような雰囲気すら漂う名作。

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