2009年4月22日水曜日

はじめての死海写本(講談社現代新書)

著者:土岐健治 出版社:講談社 発行年:2003年 評価:☆☆☆☆
 わかりやすい内容とは思えないが、学術的にかなり精緻に「死海写本」を説明、さらに巻末に「補遺」、参考文献・略号表、人名・固有名詞一覧が付されている。これで索引が詳細につけられていたら文句なしだが新書サイズでここまでこだわりの内容が追及できるあたりが、さすが講談社現代新書というべきだろうか。クムラン宗団を中心に、写本が作成されたであろう歴史を概観した上で、クムラン集団の教義などを事細かに明らかにし、著者自身の考えは「私の考えでは…」と限定つきで紹介されている。いわゆる死海写本がイエス・キリストがどうこうといった小さな問題ではなく、古代ユダヤ教のあり方やキリスト教との関連性、新約聖書や旧約聖書の分析にかなり多くのデータを提供する書籍であることが解明されていく。説明もされているが課題も説明されており、エッセネ派の一派であったクムラン宗団の残した文書から原始キリスト教やユダヤ教の流れを解明する手がかりが紹介。厳密な一神教と二元対立の世界観は今でも世界の思想の底流をなしており、過去の解明と同時に今と今後のあり方もかえる内容を秘めている。控えめな著述で写真や図版、年表などがもう少しあればわかりやすい本ではなかったかとは思うが、すでに新書としてはページ数もかなりの分量となっておりこれが限界だったのだろう。新書サイズでも「ここまでのハイクオリティ」を追及できる…といった一種の見本ともなりうる名著である。著者の控えめな断定もまた歴史学者としてのあり方を示しているようで好ましい。

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