2009年3月17日火曜日

リアルワールド(集英社)

著者:桐野夏生 出版社:集英社 発行年:2006年
 桐野夏生の小説を読む前はなんとなく息苦しい。おそらく「OUT」や「ダーク」といった過去に読んだ小説からして、出だしはともかくラストが近づくにつれて重苦しく登場人物は苦しむ、そして救いはおそらくない…という現実世界そのものを突きつけられるからだ。「グロテスク」の後半はいまひとつ感情移入できなかったが、前半部分の10代少女のそれこそグロテスクな競争心(というかプライド)の描写はなぜか心にしみわたる。そしてこの「リアルワールド」は母親を殺害した少年と4人の少女の物語。う~む。第2章が10代の少年の心理描写なんだが、こんなものかなあ…。もう少し10代の少年の心理って不安定で壊れやすいものだと思うのだが、このストーリーではけっこう基盤がしっかりしているのが意外。少女4人もそれぞれ個性はあるのだけれどそれぞれの基盤がしっかりしているのが不思議。10代ってもう少し脆弱で現実世界の前で立ちすくむようなイメージあるんだけれど。「傷つく」っていうその「傷」の意味はもしかすると平成の時代に入ってから意味合いがかなり違ってきたのかもしれない。そしてそれはおそらく携帯電話などの通信手段の発達がかなり関係しているような気がする。この小説も携帯電話なしには成立しない物語なのだが、手紙と固定電話ではちょっと話は展開しにくいだろう。後味はあまり良くないのだが、そしてほんの少しの救済はあるのだが、「基盤」がしっかりていて自分とは異なる「傷」を抱え込む登場人物に違和感を覚えたのが本音。リアルワールドはもう少し不安定でボヤっとしたもので、そしてそうした「雰囲気」をリアルに描写しようとすると小説としては成立しなくなるのかもしれない。

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