2009年3月30日月曜日

会社にお金が残らない本当の理由(フォレスト出版)

著者:岡本史郎 出版社:フォレスト出版 発行年:2004年 評価:☆☆☆
 隠れたロング&ベストセラーというべきか。資金繰りをいかによくするか。目に見えないキャッシュ・アウトがどこに存在するのかを明らかにしてくれる本。
「どんなに優秀な経営者でも会社をつぶす人はつぶします」(2ページ)というどっきりしたフレーズからこの本は始まる。役員賞与の考え方をどうするべきか。また世の中のシステム(からくり)をいかに見抜いて利用していくべきかと教えてくれる。投資収益率の話はマクロ経済学入門でも教えてくれる話だが、実際のビジネスになると逆に「定期預金にしておいたほうが儲かるのではないか」という投資収益率しかあげていないケースもある。それは利息感覚(この本では利回りと表現)が欠如しているからだと著者はいう。
①借入金の感覚
 マクロ経済学では借入利子よりも投資収益率が大きい場合にのみ投資を行うとされるが、この本ではマイホームを例にして、1960年代の借入金で家を建てるという発想のおかしさを指摘。資産の条件は流動性と保存性の2つと著者は考えているので流動性にかける固定資産は財産とは考えていないのだ。自社ビルにこだわる必要性がないとかいろいろこの例示から教訓はつかみだせる。
②自分の価値観で考える
 ブランド品だと非常に高価だが無印良品だと同じ品質で安く買えるケースもある。自分のライフスタイルだとそういうことになるが、企業戦略でもそれは同じ。大企業との名目的なビジネスよりも中小企業との契約のほうが大事なケースもありうる。
③そこそこビジネス
 リピーターをこまめに集めて地道に商売することの大事さ。お客の数は増やさなければならないが、もっと重要なのは一度購入した顧客が再び購入してくれること。
④戦略のない節約
 固定費の節約でなければ意味がない(電話代とか電気代とか変動費の節約は効果がない)。
⑤税金をとるために耐用年数が長くなっている
 木造建築のレストランの耐用年数が20年間とか実態の異なる税法規定を指摘。なるべく早く経費として計上したほうが実務的には有利と指摘。決算書は読めても繰延資産や電話加入権や保証金などはほとんど経営に意味がない資産だとがつんと指摘。上場企業はともかく確かに中小企業の無形固定資産にはほとんど意味はないだろう。また低価格戦略を中小企業が採用するリスクなども指摘。ローリスク・ハイリターンでしか中小企業の経営は成立しないというあたり、そしてそれを可能にするのが「勉強」なのだという指摘になるほどと想う。
⑤1:3:5の法則
 これは別に客観的な比率ではないのだけれど著者の経験則による一種の「壁」あるいは心理学でいう「高原効果」にあたる部分の説明といえるだろう。貯金でいえば、100万円で壁、300万で壁、500万で壁…という具合。消費もそうだがそれ以外の売上高でもそうかもしれない。

 経験科学にもとづいた「1:3:5」の壁とか、不動産(住居費)は収入の10パーセントに抑えるという安田財閥の考え方の紹介などが非常に有用。住居費は確かにストイックさが要求されるが、ある程度再生産資本を準備するためには今を禁欲的にして、所得の中では支出は10パーセント以内に抑える努力が必要になるのだろう。これを実際の生活にあてはめてみると、1ヶ月の不動産賃料が70,000円の家を借りれるのは一月の給料が700,000円を越える人だけ。つまり年収840万円の人で家賃70,000円が相場ということ。不動産賃料については自分自身でもいろいろ考えるものがあるが、一月20万円や30万円の家を借りている人は、年収8,000万ぐらいの人でなければ意味がない賃貸物件だ。生活の快適さを今求めるよりも将来の再投資を重視するべきという著者の姿勢に同感。さてこの本には図解化された別冊シリーズもあるが、資金繰りについて実生活に照らして考えてみるのにはいい本だろう。また結婚は女性にとって最大のリスクだから不動産名義などはすべて奥さんの名義にしているという著者の経営哲学に感服。一部「なにもそこまで…」と想うこともないではなかったが、それだけ「お金」についてはシビアでストイックでないと経営者としてはやっていけないということなのだろう。

0 件のコメント: