2009年3月30日月曜日

この金融政策が日本経済を救う(光文社)

著者:高橋洋一 出版社:光文社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆
 日本の経済不況はサブプライムローンの影響ではなく日本銀行による金融引き締めだとする議論から展開。景気動向指数が2006年から2007年にかけて景気の悪化を示す動きになっており、それが一つの根拠になっている。急速な日本経済の減退は生活の中でも実感するがサブプライムの影響にしてはあまりに唐突過ぎる。マネーサプライが減少したのが一つの要因であるという可能性は確かにあるだろう。著者は2008年10月8日の世界協調利下げにも日本が参加しなかったことを批判しているが、ちょっとこれは日本銀行には酷な話かもしれない。なにせ0・15%しか公定歩合(政策金利、無担保コール翌日物、オーバーナイト)は上がっていないのだからその後の金融政策のある程度の裁量枠は必要だったと想うわけで。その後もマネーサプライを増加するべく、国債そのほかの金融商品をかなり日本銀行は買い上げているので金融政策としてはかなり緩和政策がとられているといえるだろう。この量的緩和が予想インフレを押し上げて(そのもととなるのは通貨発行益:シニョレッジ)実質金利を下げて投資の拡大効果をめざす。円高に対しては著者はかなり激烈に批判しているが個人的には輸入拡大になるのでそこまで激烈に批判しなくてもいいのでは…とも想うが…。
(オズの魔法使い)
映画「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」では主人公は原油の前に金を採掘している。当時のアメリカは金本位制だったし、経済の拡大とともに金の供給は不可欠だったから、物語自体は原油の話だがそこにいたるまでにはやはり金が一番の鉱物資源だったのだろう。その後金はアラスカでも海外からも持ち込まれるので主人公の金から原油への切り替えにはやはり一種の才能があったわけだ。金銀複本位制を導入してマイルドなインフレーションをめざす民主党と金本位制を維持しようとする大統領選挙が1896年。その後アメリカは金の供給量の増加で自然なインフレーションを達成。このプロセスが「オズの魔法使い」の背後に隠れているというエピソードが著者によって紹介される。しかし著者がバーナンキによる金本位制を維持することで、金融政策の独立性が確保できず世界大恐慌になっていったとする説を紹介。さらに大恐慌脱出のきっかけとなったのはニューディール政策とされているが、ルーズベルト大統領がその前に金輸出禁止・外国為替取引の禁止で事実上金本位制度から離脱していたことを紹介している。ここで著者がいわんとしていることは非常事態には伝統的な金融政策にしばられず多少非常識でもマネーサプライを増加させるべきという主張だ。著書のタイトルの「この金融政策」とはまさしく71ページの「非伝統的金融政策」のことをさしているのだろう。ただここでタイトルの結論にあたる部分の説明がでてしまったのでこの新書ではその後の第3章で「物価」、第4章で「インフレ目標」、第5章で「株価」、第6章で「為替」について著述することとなるがこれは構成上の問題か。第4章から第6章までは一種の「各論」と考え、第3章が特に重要な結論が述べられている新書といえる。
 巻末の外貨準備を使ったデッド・エクイティ・スワップについて非常に興味深く読んだ。負債を資本にする…逆に出資側からすると債権を元手に出資するという取引になるが、その元手に外貨準備(外国為替特別会計)を使うというアイデアだ。結局日本はそれをしなかったわけだが、確かにこうした議論が政府内で行われていた時期があるというのがさすがだ。ややきつい調子が強すぎる面があるほか、第4章以降はやや専門用語が頻出してきて難しい。それでも第1章から第3章までは高校生でもわかるように簡潔な著述になっているのでやさしめの「金融緩和」重視の経済入門書といったところだろうか。
 
 

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