2009年3月22日日曜日

いい加減にしろよ(笑)(文藝春秋)

著者:日垣隆 出版社:文藝春秋 発行年:2008年 評価:☆☆☆
 全部で13人の著名人の「鑑定」をしているのだが、トップはいきなりあの有名な占い師のH氏だ。超売れっ子で京都と神楽坂の両方に御自宅を持つほか、事務所も神楽坂に構えている。紫の衣装を着て歩いているところをすれ違ったが、確かに有名人という以外のものを感じるパワフルさだった。「普通のおばさん」でありながらどうしてこれだけの有名人になっていったのか。そして占いということ自体、本人があまり信じていないのではないか…といった分析を著者は進めていく。32歳で億単位の借金を抱えた彼女は債権者と立ち向かい、原因を直視することで再起を果たす。そこにはオカルトも占いもなにもなく、危機管理をしっかり行うとともに怜悧な近代科学に支えられたビジネスを展開する。「ダメなときは別の道をゆけ」「失敗を他人のせいにするな」「運命にしばられることはない」…。この著名な占い師で始まる「鑑定」はその後、美術界の超大物H氏、裁判官の文章、警察の鑑定、総選挙をめぐるウソ(小泉前内閣の状況分析)、NPO法人、「心身喪失者」、「少年法」…といったどちらかというとウェブでもあまり真正面から取り上げたり、私見を述べるのには相当慎重にならざるをえないテーマに果敢に実名入りで取り組んでいく。ただこの著者は「批判」ではなく、明らかに「改善」を主張しているところが注目すべき点で、悪口だけでなく、個別の具体的な論点をはっきり主張し、全体的なぼやっとした「罵詈罵言だけ」の評論や批判とは明らかに一線を画している。多作とはいえない評論家だが「エコノミスト」の巻頭に毎週書かれていたコラムは鋭く、かつ「希望」にもあふれた名コラムだった。この本もまた熱烈なファンにはバッシングを受けるかもしれないが、これまで無関心、あるいは少年法や心神喪失者をめぐる議論についてもちょっと距離を置いていた人間にも問題点が明確にわかるように配慮されている。改善の方向についても著者が著述している点とそうでない論点があるが、問題点が指摘されてから後の選択はそれこそ読者がそれぞれ考えていくべきことだろう。「思考停止」をやめ、自分自身であらためて原因をみつめなおす一つのきっかけになりうる評論本。

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