2013年4月9日火曜日

評価と贈与の経済学(徳間書店)

著者:内田樹 岡田斗司夫 出版社:徳間書店 発行年:2013年 本体価格:952円
 この二人の対談を読んで思ったこと。感性の優れた著者は、「なんとなくこうじゃないかなあ」と日頃感じていたことをスパッと言語化してくれる。この本のなかにも引用されているトリブロアンド諸島の「クラ」という貝殻の交換を通じた社会構成だが、この貝殻の贈与という取引はその形が貨幣による売買取引に変化しても本質は変わらない。しっかり貯蓄するよりも貨幣をぐるぐるまわしていったほうが実は情報も質のいい情報が入手でき、社会構成の上位に位置することができる。その点で現在の不況は売買取引(贈与取引)が停滞しているわけだから、社会全体としても厚生が著しく低くなる。で、この流れを現在の生活にひきつけていくと、「人間の働く意味は誰かを養うため」という命題にいきつくわけだ(159ページ)。
 吉本興行の大物タレントは、無償で売れていないコメディアン志望の若者を飲みに連れて行ったり、あるいは生活の面倒をみた
りする。これ、だれかに強制されているわけではなく、なんとなく慣習として続いていることのようだ(芸能界ではほかのジャンルでもこうした飲みコミュニケーションはあるようだ)。これは大物タレントの慈善事業のようで実は「情は人のためならず」的な考えが根底にあると思う。それもまた贈与の経済学のひとつのあらわれだ。
 こういう贈与をめぐる体系というのは昔の日本でもお大尽様の豪遊や徒弟制度、書生制度という形で日本でもけっこうさまざまな形態でみられていたと思う。このお二人はそのうしなわれた贈与の体系を昔の日本とは違う形で現代に持ち込もうとしており、そしてそれはおそらく「成功」するんじゃなかろうか、と私などは思ってしまう。この段階で、「なんとなく思っていたことをきっちり言葉にしてくれたなあ」という満足感を抱くこと必定。
 ニートという生き方は、この本を読むと贈与の体系に一方的に「受ける側」でしか参加できないという点で「つまらない生き方」だということもわかるようになる。一見、そうは読めないかもしれないが、この本は「働けよ」というメッセージをひめた勤労感謝の本でもあるのだ。ある程度年齢のいった人間よりもむしろ20代前半の若者が読むとさらに得るところ大であろう。

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