2013年4月22日月曜日

脳を創る読書(実業之日本社)

著者:酒井邦嘉 出版社:実業之日本社 発行年:2011年 本体価格:1,200円
 活字は脳で「音」に変換されて言語野に送られ,その言語野で初めて「読む」という行為がおこなわれる。もともと「音」のほうが文字による伝達よりもはるか昔に発達したことと、活字を視覚情報としていったんとらえたあとに「音」に変換するのとは無関係ではあるまい。情報量としては圧倒的に映像が多く、次に音声、最後に活字という順番になるのだという(18ページ)。ただし情報量が不足している分だけ、脳は想像力でその不足を補おうとし、想像力が働く余地としては「活字、音声、映像」という順序になる。著者はここからチョムスキーの理論を紹介し,言葉の再帰性やフラクタル構造の解説をし、そこから「行間を読む」「想像力を働かせて読む」といった実際の現象を解説してくれている。
 さらに電子書籍と紙の書籍を比較し、電子書籍による「脳の進化」(想像力が働く余地)やマーキングなどについてコメントが加えられていく。一見読みやすそうな内容構成だが、テーマの「起承転結」のうち「転」が多く、「結」が慎重に表現されているが、私なりの「結」は「電子書籍と紙の書籍を使い分ける」「電子書籍の使い方に注意する」といった2つに凝縮されるだろうか。
 電子書籍のメリットはすべてを2進法的に表現するため、たとえばひとつの用語を特定の分野に限定するだけではなく、さまざまな分野で相互参照することができる。たとえば個人の蔵書をすべてPDFにして個人のパソコンのなかで所有している書籍に共通する事項を、LANで検索できるようにすると、ほかの読者にはない特定の読者の世界観が浮かび上がってくる…といった効果が期待できる。一人の作者の世界観にどっぷり浸るには紙の書籍だが、複数の著者の世界観を相互参照するには電子化のほうがおそらく適している。で、おそらくそうした個人のアーカイブを創るという作業そのものは「脳を創る」という点で、それほどマイナスの影響があるとは思えない。
 さまざまな著者による様々な言語の根底にチョムスキーの理論や再帰性という概念が潜むという指摘は、この本を読むまで意識したこともなかった。あとはここの読者が想像力でこの本の世界観をさらに押し広げて、電子書籍と紙の本のそれぞれのメリットを追求していくことが大事なのだろう。

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