2013年4月7日日曜日

日本人のための世界史入門(新潮社)

著者:小谷野敦 出版社:新潮社 発行年:2013年 本体価格:780円
 奇書「もてない男」を執筆された小谷野さんの新作。世界史のコンパクトな通史入門という捉え方もできるが、むしろサブカルチャーを含む世界史にまつわる書籍ガイドブックというとらえかたもできる。別に書籍リストがまとめられているわけではないのだが、あれっというとことで思わぬコミックや小説が著者の感想とともに著述されていて興味深い。歴史には科学法則性といったものはなく、偶然として発生した「要因」が「年号」などとともに記されている。一応通説として語られる原因と結果も、歴史研究が進むと覆されたりすることがある。フランス革命のルイ16世も30年前までは非常に評価が低いフランス国王だったが、最近ではむしろ自然科学や啓蒙思想などに敏感に対応していた業績が再評価されつつある。
 東大の教員が新入生に進める本のなかなどには、いきなりヘーゲルだの司馬遷だのといった原典が示されているケースがあるが、一部の大学を除いては、こうした新書から世界史にはいって、それから興味のある時代の原典に次第に進んでいくという方向性があっていい。「イーリアス」などいきなり岩波文庫で読むより、ブラッド・ピット主演の映画「トロイ」をまず見てみる、という方法だって当然ある。その点でこの本で、トロイの木馬とガンダムのホワイトベースを関連付けて「読ませる」展開に持ち込む著者の技法も高く評価されてよい。
 というのを前提として、以下の点は改善を望みたいのだが、やはり複数の映画や関連書籍を文中に示している場合には巻末にインデックスをつけるべきだろう。単行本はもちろんのこと新書でもそうした手間はやはり要したほうがよい。また表組がないので、名称の言語による対照なども非常によみにくい。新書だから、というよりも新書だからこそ図版にはある程度手をかけるべきだ。

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