2013年4月18日木曜日

独自性の発見(海と月社)

著者:ジャック・トラウト 出版社:海と月社 発行年:2011年 本体価格:1800円
 タイトルだけでは内容がわかりにくいが、著者は実務的マーケティングの草分けジャック・トラウト。コトラーが理論派マーケティングの泰斗とするとジャック・トラウトは実践マーケティングの現役マーケター。統計学的要素はほとんど書籍には登場せず、事例分析を中心に、製品のラインを絞込み、いかに差別化をなしとげていくべきか、その具体的方法を探る。
 戦略論の定石として、マイケル・ポーターのとなえた低価格戦略・差別化戦略・焦点化戦略の3つがそれぞれトレードオフで成立するという説が有名だ。だがマイケル・ポーターの書籍を読んでもいかに差別化していくか、といった手順は何も書いていない。ジャック・トラウトは図式化された戦略論に種々のケーススタディで肉付けし、製品の種類の絞込みとトップシェアそのものがすでに差別化のひとつの要因であることを指摘する。そして「何か」を諦めることで特定の目的に絞り込むことができると説く(たとえばフェデラル・エクスプレスはなんでも運ぶというサービスではなく、小貨物の翌日配達に絞り込んで成功した)。
 さまざまな要因がからみあう現実のなかで、どれか一つに的を絞り込んでそこに資源を傾注するというのは、リスクも分散ができないのである意味では勇気が必要だ。現在では小売商から製造業まですべてがリスク分散を図ろうとしているが、ときには特定のターゲットに絞り込んでいくことも必要になる、というのが著者の提言である。
 ただ残念なのは著者の「どこに焦点を絞り込むべきなのか、その根拠」があまり明示されておらず、さらにリスクの分散とターゲットの絞込みのトレードオフの関係が明確でないのが残念。もっともそれすら理論化できてしまうと、起業家が失敗することもゼロに近い確率になってしまうが。

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