2013年4月4日木曜日

日本経済を創造的に破壊せよ!(ダイヤモンド社)

著者:伊藤元重 出版社:ダイヤモンド社 発行年:2013年 本体価格:1500円
 市場競争を重視する伊藤先生の最新の著書。いわゆる「アベノミクス」の金融緩和政策・財政刺激策、そして成長戦略について分析し、成長戦略においては既存のシステムを破壊するような創造性が必要とする。インフレターゲティングについては著者は賛成の立場だが、「金融政策だけでデフレ脱却ができるかどうかはわからない」とする。成長戦略とは規制緩和などを含む広い意味での構造改革、もっといえば供給サイドの長期的な成長政策という意味合いで用いられているようだ。エネルギー問題と医療問題が例にとられているが、たとえば電力についても小売の全面自由化や発送電分離などのシステム的な政策がエネルギーの供給形態や供給量を変えるというお立場だ。
 珍しくあえてチャレンジングに、TPPに反対する立場の学者を「保護主義」的な立場と位置づけての批判が展開されたり部分もある。が、経済学的には市場原理で社会的な厚生が最大化されるのは証明されており、あとはいかに現実をモデルの最適値までもっていくかがポイントとなる。明示されているわけではないが、タイトルにも「破壊」とあるように成長戦略として供給構造をさせると、それなりに生活に打撃を受ける会社や人も増加する。理屈では確かに正しい、と思うものの、実際の政治は、TPPによってそれなりに安定している兼業農家のメリットや衰退産業の企業や従業員の声も反映していかなければならない(人や会社によっては今のデフレ安定期のほうが物価上昇率2%の社会よりも快適だ、とすることもあるだろう)。デフレによって実質債務の負担がまして企業収益を悪化させるということは認識されつつあり、「アベノミクス」がこれから実施される段階では、インフレターゲティングだけではデフレからは脱却できないという「リスク」と、成長政策を適用することでそれなりに「痛み」をしょうじることの説明が必要になってくるだろう。

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