2013年3月4日月曜日

働かないアリに意義がある(メディアファクトリー)

著者:長谷川英祐 出版社:メディアファクトリー 発行年:2010年 本体価格:740円
 自分自身が農学部出身ということもあり、農業生物学的な書籍には親近感をいだく。「アリ」(というかハチなども含めて特殊な集団構成をもつ真社会性生物)をテーマにして、素人の読者にもわかりやすく解説してくれたのがこの本。真社会性生物のさまざまな特性と、「まだわかっていない領域」についてコンパクトに語られている。ビジネス書籍としてこの本が紹介されていることもあったが、個人的にはリドリー・スコット監督の「エイリアン」を連想しながらこの本を読んだ。
 アリやハチの世界は女系世界で、「エイリアン」の世界も明らかに女系世界。エイリアンのほとんどはいわゆる「ワーカー」(働きバチ)で、大半は寄生可能な生物が「卵」によってくるまで「休眠」している状態だ。アリの情報伝達は接触刺激か「反応」になるが、エイリアンの場合、相互の情報伝達は事前に遺伝子にプログラムされたなんらかの「意図」がありそうだ…。アリやハチの集団社会と人間の集団社会とを比較しても確かに面白いかもしれないが、情報伝達や人間の場合、必ずしも「遺伝子を長期的に残す」というのが集団目標にはなっていないこともある。だから映画などと連想しつつ、この本を読むと意外にさらに面白いのかも。
 ムシの世界にも公共物への「フリーライダー」(ただ乗り)があるというのははじめて知った。ほかの虫などにまぎれこんで自分の遺伝子を残そうとする種のことだが、公共物のフリー・ライダーは近代経済学でもテーマになる問題(人間の社会では取引という概念を持ち込んでフリー・ライダー問題を解決する方法などがある)である。アリやらハチやらでもフリー・ライダーが存在するというのは「群」(あるいは社会)が存在するうえで不可避の問題なのかもしれない。

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