2013年3月26日火曜日

投手論(PHP研究所)

著者:吉井理人 出版社:PHP研究所 発行年:2013年 本体価格:760円
 「真っ向勝負」の古いタイプの投手…かつて近鉄バッファローズからヤクルトスワローズに移籍したころの吉井投手にはそんなイメージがあった。また理詰めで勝負する野村克也監督とうまくいくのだろうか、という不安もヤクルトファンとしてはあった。水と油のようにも思えたのだが意外にも吉井投手と野村監督とは相通じるものがあったらしい。野村監督も南海ホークスの監督を解任されてからロッテ、西武と渡り歩いた苦労人だが、吉井投手も抑え投手としては一流だったのに近鉄から放出されたのに等しい。ただし、この本を読む限り、単に「苦労人」というだけでなく、力勝負の吉井投手に頭を使って勝負に勝つ方法を教えたのは野村監督のようだ。コンディショニング作りこそがコーチの役目と自己を規定して、独自のコーチ理論を積み上げていくスタイルは、力勝負の投手というよりもID野球の異端の申し子といえるかもしれない。配球をリズムでとらえる、右投げ左打ちのバッターと左投げ左打ちのバッターとでも打ち方が異なってくる、瞬間瞬間の積み重ねや日常の些細なことがらを大事にする…といった考え方はまさしくプロフェッショナル。実際の生活に応用できる考え方も少なくない。野球選手の著書は日々勝負に打ち勝ってきた人間の言葉で構成されているだけに、人間対人間のアナログな場面や自分自身と対峙してなんらかの目標を達成しようとするさいに有益な部分が多い。大雑把ともみえた現役時代の著者の「外見」とはうらはらに緻密で、しかも繊細な投手の投球理論を学ぶことができる。

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