2013年3月27日水曜日

臆病者のための裁判入門(文藝春秋)

著者:橘玲 出版社:文藝春秋 発行年:2012年 本体価格:780円
 「訴えてやる」というやりとりは日常のトラブルでもよく聞かれるセリフだが、実際の裁判は書類作成と証拠の準備、弁護士への相談料などコストと時間がかさむばかり。この本ではある損害保険会社の窓口担当員が単に事務処理の煩雑さのために、ある被保険者の交通事故を自損自弁したことに対する裁判が扱われている。とはいっても著者はあくまでその被保険者の補佐であり、あとは地方裁判所と簡易裁判所をたらいまわしにされたあげく、ついには東京高裁に控訴するに至る。経済的なメリットは著者にはまったくなく、また実際の原告となった当事者(被保険者)も得たものはわずかばかりの金額で、ほとんど実際には名誉毀損裁判のようなもの。そしてそのプロセスから垣間見えるのは福島原子力発電所の損害賠償をめぐる気が遠くなるような交渉と裁判の事務処理だ。
 もちろんすべての被害者がもれなく福島地方裁判所や観光被害などを被った現地の地方裁判所で裁判をおこない、しかるべき損害賠償をしてもらうのが理想的だが、証拠集めや口頭弁論など時間とコストが莫大なものとなる(原告にとっても被告にとっても)。原発ADRはそうした裁判手続きにまつわるコストを軽減化するものだが、ADRでも未処理の案件が積み上がっていく。福島原子力発電所事故の後始末は、むしろこれから本格化する可能性もあり、その社会的コストを積み上げていくと火力発電のコストなどは問題にならないほどの「原価高」になっている可能性がある。
 この本で扱われているような少額訴訟、意外に10年後はさらに増えているのかもしれない。

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