2013年5月16日木曜日

日本経済の奇妙な常識(講談社)

著者:吉本佳生 出版社:講談社 発行年:2011年 本体価格:740円
 個人的に最大限の信頼をよせる吉本佳生先生の2011年の著作。貿易・サービス収支・所得収支・経常移転収支などの国際収支の読み方も国際マクロのテキストよりもずっとわかりやすく解説してくれる。これ、たとえば海外留学が盛んな国でいうと、学業をいうサービスを海外で購入するので、資金は持ち出しとなりサービス収支は減少要因、さらには仕送りなどで海外へ送金すると経常移転収支もマイナス要因で、通常の資本投資とは異なり利子率などの配当はないので資本収支には影響しない…といった見方がするっとできるようになる。ちなみに日本の場合は貿易収支よりも所得収支のほうが黒字要因としては大きい(208ページ)。日本人が海外で所得を稼いでくると所得収支は増加要因だが、国内で外国人に給与を支払うと減少要因となる。これだけ海外進出が相次ぐ現在、所得収支の黒字額が大きい…という理由もすんなり理解できる。
 で、この本のテーマとなる「奇妙な常識」とは、たとえば石油資源が高騰しても国内の賃金デフレが深刻化した状況や各企業がリスク管理をしているつもりがさらに株価や債券の暴落を招いてしまうという事象をさす。著者はそうした「常識」の背後にある合理性を読み解いていくのだが、経済学部出身者でなくてもわかる初歩的なマクロ経済学の「ツール」でわかりやすく解説。アベノミクスでマネーストックが大幅に緩和されている状況で、なぜ住宅ローンの金利が上昇するのか、といった2013年5月現在の状況もこの書籍のロジックを援用することで容易に理解できる。
 その昔、「仕組み債」とよばれる複雑な金融商品がいかに購入者にとって不利な金融商品か、ということもこの著者から教わった。アベノミクスの「成功」についても著者は「賃金の上昇率がどうなるか」「賃金格差(男女間の格差、雇用形態の格差、世代別の格差など)をいかにして埋めるか」といった鋭い指摘にあふれている。アベノミクス登場前の新書だが、2013年の今読んでも学ぶところは多い。

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