2008年6月29日日曜日

愚者の道(角川書店)

著者:中村うさぎ 出版社:角川書店 発行年:2008年
 文庫本の発行が2008年ということで単行本は2005年発行だ。つまりこの本の内容は中村うさぎさんが46歳~47歳のころの話がメインとなる。
「わかりやすい文章」と「わかりにくい文章」と2つに分類すると「わかりやすい文章」のほうがもちろん結論は明確だ。大学の小論文の試験などは「わかりやすい文章」のほうがおそらく評価は高いだろう。だが実際に現実を見て何かを書くときに小論文の試験ほど簡単に結論を出して理由を述べる…といった構成ではかえって現実の複雑さと整合しなくなることが多くなる。というわけで私自身もかつては,「結論を出して,理由を出してさいごにまとめる」といった形式の文章は,そういうことが必要な場面以外では書かないことにしている。「わかりにくい文章」は筆者が混乱している証拠ともいうが,その通り。混乱しているからこそ書いて物事を整理したい。で,それを安易に結論づけたくないから,断定もしたくない。「~と思う」とか「~のようだ」といった曖昧な文末は小論文の試験では使わないほうがよいが,実際に世の中で断言できることはほとんどない。小論文のテクニカルなことは実際にはあまり使えないスキルなのだ。で,この本は極めて難解でしかもわかりにくいのだが,それでも伝わってくるものがあるのは,筆者自身が「混乱」している様子そのものが一つの「芸」になっているからだ。「愚者とは何か」という定義づけから始めようとしているのだが,その定義すら実は成功しているとは言いがたい。ブランド品の買いアサリからホストクラブへの入れ上げ,そして整形手術と消費の権化のように言われていたがご本人は消費者という分類すら否定し,自らを愚者とする。そしてその愚者には「破壊の暗黒神」(穴のあいたバケツ)が心の中に住んでいる。妙に哲学的になってくるのだが,筆者の破壊の神は,商業主義的な文章すら拒み,2005年の夏のデリヘル体験を告白する。「価値」という言葉が頻出するのだが,「価値体系」や「分類体系」の枠組みを拒否する姿勢は私にとっては爽快でもアル。ただ世の中にはこの本を読んでかえって不愉快に思う人も少なからず存在するのだろう。で,「愚者の道」。それは中村うさぎ一人が歩む道だろうか。いやいや。金額は違えど,また人はデリヘルもやらなければホストに入れ上げる人もまた比率からは少ないかもしれが,大方の人間は「愚者」なのだ。「愚者と他者」と2つを並列して自分を「他者」だと認識している人間は,愚者でも賢人でもない「人々」という集合名詞でくくられる中の一つのカッコでくくられる要素にすぎない。

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