2008年3月14日金曜日

帝国の陰謀(日本文芸社)


著者名;蓮實重彦 出版社;日本文芸社 出版年;1991年

 2月革命が終了したあとひっそりとフランスにもどり選挙に当選したルイ・ナポレオン。いわゆるナポレオン3世による第二帝政時代。しかし著者はルイ・ナポレオンではなく、その義兄弟である立法院議長ド・モルニーの公的文書と私的文書をテキストとして読み比較していくところに主眼がある。テクノロジーの発達、印刷技術の発達によって「例の文書」と当事者がよんでいた文書によって、革命はあっけなく成功してしまう。これが1851年12月2日の早朝。この革命からナポレオン3世は万国博覧会を開きフランスの国威発揚とやや軽めの戦争をこなしていくのだが、著者はあくまでド・モルニーという歴史的には脇役の文書を丹念に分析していく。そして第二帝政期に流行したというオペレッタとこの革命の奇妙な類似と「反復」の謎解きを筆者があっけなくしてしまう。「曖昧」な状況のもとでしかるべく進行していったこの歴史的事件は、確かに「現在」にも通じる曖昧さであり、そうそう、そういえば鈴木清順監督が「オペレッタ狸御殿」を撮影したのも21世紀のこの時代にはまさしくふさわしい行為だったのだとこの本を読んで納得してしまう結果となる。西洋画をあしらった軽い感じのする、しかしハンディなこの歴史書もしくは解説書は、まさしく第二帝政期という時代の雰囲気を「本」自体で表現しているのかもしれない。

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