2008年3月9日日曜日

がんから始まる(文藝春秋)

著者名;岸本葉子 出版社;文藝春秋 発行年;2006年
 40歳になり、突然のがん告知を受けた著者。持ち前の「明るさ」「自尊」といったプライドを維持しつつ、「告知前」と「告知後」の線引きなどを次第に明らかにしていく。タイトルはこれまでの岸本葉子さんの著作集よりも重たいが、抑制のきいた文章とユーモアは健在。自分だったらどうだったろう…とわが身をふりかえざるにはいられない手術前の克明な描写。何気ない一言を発する前の心境の描写。「がん」になることはこういうことなんだ…と読んでいるうちに一気にラストまで読みすすめてしまう迫力。「死に向かっていきている私たち自身が不条理なのだ」という抽象的レベルの話から、入院の支度、そして術後のサポートグループの話まで、エッセイではあるけれども、下手な小説以上に感動できる名作。そして生活書としても読んでおく価値はあるだろう。なにせ発生原因がはっきりしない病気である。「その日」に備えておく…という姿勢は重要だと思う。筆者は「外相整いて内相自ら熟す」というという岩井寛さんの言葉を日ごろから机の中に入れていたという。淡々と文章に心や生活の状況を刻んでいく姿勢はまさしく「外相」整う状態だ。普通に生活すること、普通に生きていくことの大変さを再認識する。そしてその重要さも。

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