2012年12月2日日曜日

絞首刑(講談社)

著者:青木理 出版社:講談社 発行年:2012年(文庫本) 本体価格:648円(文庫本)
 元共同通信記者による死刑囚へのインタビューと事件の総括ルポ。いわゆる「木曽川・長良川連続リンチ殺人事件」を軸にして、「栃木・今市四人殺傷事件」「愛知・半田保険金殺人事件」「埼玉・熊谷拉致殺傷事件」「福岡・飯塚女児殺害事件」の合計5つの事件と犯人を取り扱う。301ページには死刑を控えた囚人の写真も掲載されており、この写真をめぐっての著者と法務省の対立も最終章に収録されている。
 死刑に反対でもなく賛成でもないという著者のスタンスは形式的にはわかるが、読んでいくと特定の死刑囚への思い入れが特に際立ってくる。違和感を覚えるほどの思い入れが、逆にこの本の「特徴」かもしれない。重たいテーマで、しかも日本とアメリカの一部の州に特有の問題ではあるが、インタビューをすることができない「被害者」の視線というのもページの向こう側から見えてくる。リンチで殺害された被害者という立場も考慮すると、「貧しいから「虐待されていたから」「改心したから」という理由での免責は難しい。書籍のうえでの刑罰理論ではなく、絞首刑に用いられるロープの描写や死刑囚の描写というのがこの日本では少なすぎるという点では意味があるルポだ。ただし相当数の読者が「違和感」や「反発」を覚えることは間違いなく、筆者の主観が色濃くでている点では異色すぎるルポだ。
 死刑をめぐる情報開示や議論の透明性もこの本の問題提起だが、法務省や刑務所の内部規定に違反した撮影で、逆にその言い分は通りにくくなったのではないかという疑問もある。著者の言い分もわかるが実際に刑務所の内部統治をしている側にもそれなりの内部秩序の維持という義務があり、また法的に部分社会の法理が認められている以上、死刑囚の写真撮影がまるで肯定されるとは正直思えない。とはいえ、なにからなにまで「お上」の言い分を聞いているばかりでは、ジャーナリズムが死んでしまう。ある意味ではこの癖のあるルポは、著者なりのある死刑囚に捧げた「思い」の現れか。
 

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