2012年12月12日水曜日

人間仮免中(イースト・プレス)

著者:卯月妙子 出版社:イースト・プレス 発行年:2012年 本体価格:1300円
 1971年生まれ。最初の夫は飛び降り自殺し、自らも統合失調症を患い、歩道橋から飛び降りてしまう。「あとがき」には、かなり多数の編集者に賛辞が述べられているが、ここまで完成させるまでの関係者の苦労は並大抵のものではなかったはずだ。だが、自らの幻覚や幻聴までも作品に書き込み、さらには自分自身の服薬状況や「墜落」からの詳細な回復のプロセスまでを細密に描写した歴史的作品がここに完成している。定価1,300円でいいのかしら、と思うぐらいの名作だ。
 「絵」そのものは正直うまくない。ただその「下手さ加減」が、かえって迫真さを増している。「パチンパチン」「プシュー」「じょきっ」と手書きで書かれたネームがまた怖く、リアルだ。ありきたりのオノマトペなのに、なぜにここまで怖いのか。現実と幻覚の境目がわからなくなっている著者と読者である自分自身が妙にかぶさってくるところが、「物語」にひきこまれそうになって、怖くなるのではなかろうか。なにせこの漫画は現在進行中の「物語」で、明日にはまた予想もつかない展開が待ち構えているのかもしれないのだから。ひたすら暗く、しかも激烈なエピソードが連続するなかで、ふと目頭があつ~くなる瞬間が、小さな文字で縦書きに組まれた「ありがとう」という文字。なんでだろう。ひたすら陰惨な話なのに、前向きな気持ちになれる。

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