2009年5月31日日曜日

看守眼(実業之日本社)

著者:横山秀夫 出版社:実業之日本社 発行年:2007年
 横山秀夫のミステリー(というか人間ドラマ)は密接な描写とリアリティでとても面白い。映画化された作品が「震度0」「クライマーズ・ハイ」「出口のない海」と多いのも人間模様が絵空事ではなく、地に足がついたものだからだろう。「看守眼」も定年間近の看守、フリーのライター、裁判所の離婚調停委員、警察署のサーバの管理者、地方新聞整理部のベテラン記者、地方自治体の秘書課課長などと重要な社会的ポジションではあるものの普段はその生活や人間像を想像しにくい職業まで緻密に描写されている。著者自身がもともと新聞社の記者だったからかもしれないが、それぞれの職業の些細な仕草や感情の描写からストーリーに引き込まれていく。
 「相手の懐に飛び込む」というアドバイスをある場面で先輩が後輩にする場面がある。なんとなくこの年齢になると、わかる。予定調和どおりにはなかなか人生いかないし、思い通りにもいかないことがある。この小説の主人公たちもすべて「予定通り」にはいかなかった「場面」に遭遇した人物だちだ。だが、そこで「相手の懐にとびこんでみる」ことができるかどうかが、結果の良し悪しを分けたように思える。

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