2009年5月21日木曜日

ビタミンF(新潮社)

著者:重松清 出版社:新潮社 発行年:2000年
 30代後半から40代半ばまでの中年男性を主に扱った7つの短編集。直木賞受賞作品だ。「世代のズレ」というのは常にある。自分が10代や20代のときにはやはり30代、40代との価値観のズレを大きく意識したし、現在でも50代、60代の価値観とは相容れない部分が多い。といって現在の10代や20代とも価値観が共有できているわけではない。迷いが生じて、しかもしんどいというのがこの30代~40代の世代で、しかもバブル景気とデフレ不況という極端な時代を2つとも経験している。バブルで入社して土地の値段が高いときにマンションを購入していれば今ではやはりローンの支払いに苦しんでいるはずだし、そうでなくとも再びやってきたサブプライムローン不況でリストラの憂き目にあう。しかし自分の子供や次の世代に対しては責任を負うとともに上の世代はもう引退の時期だ。子供もしんどいが大人もしんどい。そんな時代に前を向いて歩くのにはなにかとエネルギーが必要で、そのエネルギー源になってくれるのがこういう小説だろう。一見ありふれた日常生活を扱っているようで、実はその根は深い。だれにも経験があるであろうお金の問題、子供の問題、そして自分自身の現在と過去と未来の問題。7つの短編集の主人公はいずれも別人だがいずれも読者のそれぞれの7つの部分を反映した一人の人間の心象風景でもあるだろう。読み終わったらきっと、「ま、しんどいけど、頑張ってみるかな」といったちょっと漸進できるような気分にさせてくれる短編集だ。

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