2011年2月10日木曜日

野村ボヤキ語録(角川書店)

著者:野村克也 出版社:角川書店 発行年:2011年 本体価格:724円
人間を動かすのには3つの要素があるという。「論理」「利害」「感情」の3つ。ビジネスパーソンのほとんどは「利害」で動くのではないかと思うが、やり手のコンサルタントや職人などはむしろ「感情」で動くことのほうが多いかもしれない。また学者や研究者は「論理」で動くこともあるだろう。かつての阪神タイガースで新庄選手に対しては野村監督は「感情」にうったえてモチベーションを高めようとしたというエピソードが紹介されている。成功したかどうかはともかく、「論理」や「利害」では動かない選手だ…という洞察はあたっていたようだ。また野球のコーチなどの指導力を高めるのに「過去の成功体験だけではだめ」。ではどうすればいいのかというと「アレンジ力をつけよ」というアドバイスをする。過去の経験をそのまま「解説」「実況」するのではなく、そのエッセンスを角度をかえて現代流にアレンジして選手に伝える。それが選手の感性にフィットして、成功体験を高めていくというプラスの流れだ。目標に向かって努力していくのには、それなりに困難な時代ではある(もっとも楽な時代などはこれまでもなかったわけだが)。今の時代に即した努力の方向性を、今の時代に即したエピソードで語り継ぐ「アレンジメント」がなければ野球の監督やコーチも、そして会社のビジネスパーソンも陳腐化した存在になるのかもしれない。

2011年2月9日水曜日

貧乏人を喰う奴らを暴く!(宝島社)

著者:夏原 武 出版社:宝島社 発行年:2011年 本体価格:457円
人気漫画「クロサギ」の作者が執筆した「貧困ビジネス」の実態。在宅ビジネス詐欺とかカード決済による総量規制の裏道などは容易に想像がつく「ビジネス」(?)だが、生活保護受給者を利用した「組織的なビジネス」にはやや愕然とした。バブル景気の後始末がすんでいない地域には採算性がとれないようなワンルームマンションやアパートが散在するが、そこを生活保護受給者の居住地にして、そのあがりをかすめるという方式。さらにはやや古風ではあるが「名義貸し」もしくは「ネームロンダリング」とよばれる戸籍の売却や他人名義を利用した借金ビジネス。これ、別に貧困ビジネスではなくても、「ちょっと名前貸して」といわれれば普通の人でも名義がししてしまうかもしれないという怖さがある。他人から借りた名義で消費者金融などから借金しまくってしまうということは実際可能だし、その場合相手は善意の第三者だから、その借金を本来の「名義人」が肩代わりして支払うことだってありうるわけだ。ラストには将来的に「一日500円で生活する500円亭主」なる概念まででてくるが…いや、これ、実際にありうるかもしれない。住宅ローンの返済や教育費などのことを考えると現在のデフレでは一日500円で昼食そのほかをまかなわなければ家計が維持できないご夫婦実際にいらっしゃるかも。インタビューは匿名が多く、もしかするとエキセントリックに表現されている部分もあるかもしれないが、信憑性は高いと思った。179ページ前後の「離婚」をめぐる著述は結婚している男性には悪夢かもしれない。


2011年2月7日月曜日

「強いモチベーション」を生み出すプロの方法(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2009年 本体価格:800円
「経営戦略」を立案するのと実行するのとには壁がある…。となるとそれを乗り越えるのはやはり個人のモチベーションということになる。では個人レベルでモチベーションを高めていくのには…ということでこの本。小さなことを積み重ねていって達成感を高めつつ、大きなことにまで仕上げていく、という方法。実はこれしかなさそうだ。自分自身はたとえば昨年12月の上旬の体重が65キロで2月上旬現在の今日では60.8キログラム。約5キロの減量に成功したが、これもまた一日50グラム程度の目安と食欲の管理の毎日の積み重ねで2ヶ月たらずで5キロの減量につなげていった…という経験則による。あまりに大きな目標にいきなり立ち向かうよりも小さな目標を少しづつ達成していくしか方法がない。「決意や決心はあてにならない」「打てる手はなるべく全部うっておく」といった実践的な考え方がてんこもり。経営戦略とか大きな話も大事。しかし身近な生活レベルのこうした基本技能も大事なのではないかと最近あらためて生活重視の人生みたいなものを考える日々…。

2011年2月6日日曜日

脱「でぶスモーカー」の仕事術(日本経済新聞出版社)

著者:デービッド・メイスター 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2009年 本体価格:1900円
う~ん…。経営戦略が立案できてもそれが実行されないのはなぜか…という問題点を指摘し、小さな達成目標をクリアしていくこと…という答えめいたものが述べられる。「自ら進んでやる」というのは自ら納得しただけのとき、というのは納得。だがそれを経営層がどれだけ浸透できるかというのはこれまでの経営戦略の本では着目されてこなかった点ではある。日本企業の場合には経営戦略に適合しない社内活動をしていれば組織からはじきだされるだけ…という明白な信賞必罰があるわけだが。「手段より原則が効果を生む」というのも至言だが、原理原則をどうやってうちだすのかというと、意外とレスリスバーガーあたりの研究成果である「社内報」あたりが一番効果的だったりして。原理原則の明確化って何度も同じコトを訓示するか、よりわかりやすい一言で説明するかのどちらかでしかないような気もする。よりこの本の内容を現実に適合させるには、個人個人のモチベーション管理を徹底させるより他ないような気がする。

日教組(新潮社)

著者:森口 朗 出版社:新潮社 発行年:2010年 本体価格:740円
「日教組が全部悪い」というのは飲み屋ばりの教育談義では欠かせないアイテム。だいたい日教組の悪口だけいっていればそれで周囲も丸くおさまるという構図なのだが、それでは過去日教組がどれだけ自分の生育過程に影響があったか…というとさほど思い出がない。たしかに一部マルクス経済学かぶれの先生方もいらっしゃったが、それで自分が影響を受けたかというと影響は受けていない。で、この本だが日教組が戦後文部省主導でできあがり、勤務評定闘争までは管理職も構成メンバーであったこと、その後、職場の穏当なメンバーと執行部の過激なメンバーの2極化と日本共産党シンパの全教メンバーに分裂したこと。現在では社会民主党と民主党支持の団体に近いことなどが説明されているほか、日の丸や君が代問題をめぐる問題点(法律化されたことにより、将来政権交代とともに別の国歌や国旗に変えられる可能性があること)なども指摘されている。メリットとデメリットを穏当に説明してあるほか、現場の指導力という意味では日教組の教員とそうでない教員とで区別されるべきではない、という指摘もされている。特定の主義主張にのっとられた団体が教育の現場に君臨しては確かにまずいが、この労働組合の場合には、文部省や自由民主党なども一定の関与があり、それほどコトは簡単ではない。少なくとも教育の荒廃(?)に手を貸した…という意味では行政や政治も責任をおっており、「シンプルに日教組が悪い」という飲み屋談義を一歩さらに進化させてくれる内容であることは確か。もうこの組合を組織率が低下しており、それほど影響力もないのでは…ともいえるが、民主党がこの組織を無視できない背景についても説明がしっかりなされている。

パリが愛した娼婦(角川学芸出版)

著者:鹿島茂 出版社:角川学芸出版 発行年:2011年 本体価格:2800円 評価:☆☆☆☆
飯田橋の文教堂書店では学芸モノや歴史モノは向かって右側通路側の壁に一箇所にまとめられて陳列されている。まあ大体「ガリア戦記」など定番の書籍が多いのだが、こうして新刊の歴史モノもたまに並べられているから油断ができない。さりげなく「棚差し」になっていたこの1冊をさっそく購入。読み始めたら面白くて一気読みである。フランス資本主義が消費主導型に移行するのがだいたい19世紀。ちょうど百貨店という小売商のスタイルが定着したころだが、このころは奢侈品が増加し陳列されるようになった時代。ただし所得の格差がきわめて大きかった時代ということになる。資本主義の「進化」(?)とパリの公娼や私娼の「家計簿」やエミール・ゾラなどの描写をもとに鹿島茂が見事な世界観をまた打ち出してくれる。兵士用のメゾン・クローズの写真や歴史に名を残すエミリエンヌ・ダランソンの写真(33ページ)、リアーヌ・ド・プージィの写真(51ページ)などがまた興味深い。「ヒモはなぜ必要か」と命題についても鹿島茂氏の見事な考察が述べられている。それもまた資本主義構造の当然の帰結として「ヒモ」というのは必要悪になるわけだ。で、資本主義の進化とともに生物学的な要請ではなく「脳髄から生み出される仮想空間」へと「場所」が変化していく様子も見事に描写。歴史的事件がただ羅列されているのではなく、文芸作品から歴史的背景、そして写真もからませて現在の生活もまた「再修正」して見直すことができるという見事な作品。歴史ってこういうアプローチもまた必要。

2011年2月4日金曜日

神話の力(早川書房)

著者:ジョーゼフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ 出版社:早川書房 発行年:2010年 本体価格:1,000円 評価:☆☆☆☆☆
単行本として出版されたのが1992年。それから18年後にこうして文庫化されたのがこの名著。「人生の意味」よりも「人生の経験」を重視し、ユングの影響を強く受けながら文化や人種の差異を乗り越える叡智を兼ね備えた人徳者。けっして自らの学説を押し付けようとするところがなく、淡々と神話の中からメッセージを汲み取るジョーゼフ・キャンベルの語り口がすばらしい。人間の精神的な可能性を追求しようとするそのエネルギーが満ち溢れたこの本は、無宗教である私の心にも訴える「何か」がある。自己の外見ではなく内面に深く浸透していこうとするとき適切なナビゲーターがなければそのまま人間は「個」の中に沈潜してしまう。だがそうした人間の弱さを克服するべく生まれたのが神話であるのかもしれない。身体よりも精神を、そして「生活」というともすれば学識者が無視するような人生の側面にも配慮してくれているジェームズ・キャンベルの「内面」がこの本を名著として成立させている。価格1,000円は安い。そして2010年にこの名著を文庫本として発刊した早川書房の英断にも拍手。