2009年8月18日火曜日

宝島2009年9月号(宝島社)

評価:☆☆☆☆☆
めったに読まない雑誌だが知人の勧めもあって2009年9月号は購入。特集は「倒産したらこうなった」。かなり充実した特集で倒産経験者100人のアンケートで「倒産時の貯蓄」「未払いの給料」「失業保険の受給」などについて解答がよせられている。さらに倒産のタイプ分類やSFCGの元従業員の座談会、NOVAの会社更生法適用後の実態、元京浜ホテルの活動状況、自宅競売などの住宅ローンの問題(自宅マンションを売却しても2000万円のローン残高)、さらに日立市を例にとって倒産統計に出てこない自主廃業の例や倒産対処法の集中講義なども掲載されている。賃金の立替払い制度や国民年金の重要性は認識していたが、国民健康保険に分割納付制度があるというのは知らなかった。生命保険の契約者貸付制度や金融機関とのリスケジューリングの交渉、子供の学費の応急採用など、知っておいて損のない情報が満載。特に給与明細書の保存、タイムカードのコピーの保存、就業規則の保存といった日ごろのまめな書類の保存・管理は大事なことだと思う。これで定価が480円は安い。

2009年8月16日日曜日

特上カバチ!!2巻・16巻・17巻

原作:田島隆 漫画:東風隆広 出版社:講談社 発行年:2005年~2009年
 人気シリーズだが「巻」を順に追ってよむほどマメには読んでおらず、したがってこうしてバラバラに読むことになる。第2巻で離婚の慰謝料、第16巻で債権減殺、第17巻で労働法を扱う。いずれも弱者の視点からストーリーを描写した優れものだが、行政書士の職務としては法的許容範囲のギリギリのところだろうか。代理人業務までは認められていないので、おそらく漫画には描かれていないが、報酬はあくまで書類の代書のみということになるだろうが、これでこの行政書士事務所ははたしてどこまで経営として成立しうるのか…。ただ場面設定として地方都市が選ばれているのは興味深い。弁護士のほとんどが大都市圏内に事務所を開く関係で法律問題が発生しても行政書士や司法書士、社会保険労務士といったパラリーガルがどうしてもアドバイスやコンサルティングをしなくてはならない場面というのは実際ありうる。まさか借金問題で悩む債務者が田舎から大都市までの交通費と相談料を納付して、まめにかよう…というのも考えにくい。第17巻の孤独に働く中年の労働者と子供のエピソードが胸に痛い。この御時勢、この漫画のように深夜喫茶やネットカフェで生活をしのぐしかない方々も多数存在するはず…。

2009年8月12日水曜日

必ず!「プラス思考」になる7つの法則(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2008年
 通勤時間が種々の関係で短くなってしまった。勢い、通勤時間内で読めて、しかも会社についてから積極的に動けるモチベーションがでてくるような本を選んで朝読むことになる。ワイド新書サイズの和田秀樹の著作物だとちょうど短い通勤時間で読めてしかも会社に着いてから8時間以上頑張ることもできる内容なので非常に都合がいい。
 自分への悪口や皮肉をさらっと流してマイペースで頑張れる人っていうのが一種の幸せな人、もしくはプラス思考の人ということになるが、どうせ仕事をするのであればそうしたプラス思考の人のほうが一緒に仕事をしていて楽しい。けっして明るい人間ではないけれど、プラス思考でマイナスの状況をもプラスに考えることの出来る人間だと、周囲の人間も協力体制になってくれるというものだ。不機嫌な人の定義として「すべて自分に都合のいいように考える」という特徴が指摘されているが、これ、わかるなー。不機嫌な人ほど自分に都合の悪いことには目をつぶり、他人のあら捜しが好きだし。ま、何かトラブルがあったときには「自分も悪かったなー」と反省できるという部分もプラス思考の一部だし、そう思えばきっと腹がたつことも減ってくる。怒りや憎しみの感情がなければ必然的にプラス思考になっていく…ということだろう。猜疑心の強いリーダーや上司っていうのは、確かに人望がないことは明らかだし。

「質問力」で勝つ!(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2009年
 ワイド新書という珍しい判型。朝の電車で読むにはちょうどいい内容と重さだ。問題解決能力と問題発見能力とのバランス、夢と現実解決能力のバランスを重視しようという著者の姿勢はやはり実務的。自問自答を含めた質問を繰り返すことで理解が深まり記憶にも定着する効果を述べ、さらに優れた質問によって質問された人にとっても質問をした人にとってもさらによりよい相互理解・相互協力の関係が築けるという内容だ。
 「なぜ」に的確に答えていくのは非常に難しいことではあるが、答えていくことによって自分自身の問題解決能力も向上していく。
 「これが問題なのだ」と問題提起はわりと楽にできるが、「ではどうすればいいのか」という問題解決についてはわりと放置されているケースがあったりするが、問題提起と問題解決のバランスがとれていないと「問題」ばかりが山積みになってしまい収拾のつかない状態にもなりうる。「ここがおかしい」「本当におかしいのか?」という自分で自分に問いかける姿勢。かなり大事ではないかなあと思う。

2009年8月9日日曜日

深く考え、すぐ動け(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2009年
 二者択一ではなく、三つの選択肢を容易し、その結論を三つの根拠で考えてすぐ実践していこうという趣旨の本。チャンスは「3回」と「3」にひたすらこだわり続ける著者だが、二者択一だと極論から極論に移動しがちで、さらに他の可能性を考えることができなくなるのがまずい、ということなのだろう。苦手なことではなく自分の得意分野などに特化していこうというのも一つの生き方だし、深く考えるといっても哲学的なところまで考えていては何も決まらない。札幌ラーメンにしようか九州ラーメンにしようか、あるいはカレーにしようか…と選択肢を3つ用意して、その中からカレーにする、と決めるようなもの。大して結果に大きな差異はなさそうではあるが、一つ考え込むことで、より楽しみも少し拡大するといった感じか。「深く考える」とはいっても考えすぎてもいけないな、という著者の実務的な割り切りが見える。

SaaSで激変するソフトウェア・ビジネス(毎日コミュニケーションズ)

著者;城田真琴 出版社;毎日コミュニケーション 発行年:2007年
 セブンアンドワイで検索してみると、すでに廃刊とのこと。SaaSという言葉自体ようやく浸透してきたように思えるのに早くも絶版というのがこの時代の変化の激しさを物語る。アプリケーション・ホスティングとさして大きく変わるところがないようだが、すでに無意識のうちにウェブ上のアプリケーションで色々な操作を行っている。google documentsもそうだし、実は「履歴書メーカー」というウェブ上のコンテンツも利用していた。フォーマットに打ち込むだけですべて印刷までできてしまうという優れもので、こういうソフトウェア・サービスがパッケージ化されたらそれなりに値段もするだろうと思ったものだ。
 ただ本書でも言及されているのだが、これだけで売上をあげて利益をだすのは容易なことではない。サービス利用料で開発コストを回収していくという商品モデルだが、ウェブ・コンテンツで有料で、しかもそれなりにセキュリティも担保されてさらにバージョン・アップもしていくとなると、いくら小回りのきくベンチャー企業向けのビジネスとはいっても、資金回収にいきづまりを見せるのは目に見えている。パッケージ・ソフトの「箱」自体を量販店で見返ることも少なくなってきたが、もしこのSaaSに問題があるとすると、あんまり利益率が低くなったら、この市場に参入する企業もいなくなるであろう…という問題だ。全員がgoogleのようになれればまた別だが、おそらくコンテンツごとに細かく市場が分断化されて、さらにそれぞれの市場で独占もしくは寡占状態で推移していくことになると予想される。

2009年8月2日日曜日

チャイルド44上巻・下巻(新潮社)

著者;トム・ロブ・スミス 出版社:新潮社 発行年:2008年 評価:☆☆☆☆☆
 すでにリドリー・スコット監督、メル・ギブソン主演(予定)でハリウッドが映画化権を取得している作品。革命から約20年後のウクライナ地方の飢餓エピソードとスターリン独裁政治の1953年のエピソードが冒頭につづられ、そしてモスクワの国家保安省(MGB)捜査官レオ・ステパノヴィッチ・デミドフの捜査に焦点が移っていく。ソビエト連邦では社会主義国家においては犯罪や貧困は発生しないという前提であったため、犯罪捜査が始まった瞬間にはすでに容疑者は真犯人とみなされていた。しかし、ソビエト連邦各地で連続して多発する子供の惨殺死体。そしてその死体には特有の「痕跡」が残されていた…。
 29歳の著者が書いたものとは思えないほどの壮絶さで1950年代のソビエト連邦と中堅一歩手前の夫婦のあり方が描写される。ミステリー小説といえばミステリー小説で最後に「衝撃の結末」が用意されてはいるのだが、「共同体とは?」「国家とは?」「結婚とは?」といった問いかけが伏線に用意されている秀作。文庫本には地図も付されており、地名はすぐ参照できるように読者に配慮された編集となっている。この本の下敷になった「子供たちは森に消えた」(文藝春秋)や映画「ロシア52人虐殺犯チカチーロ」(スティーブン・レイ主演)もすでに読んだり見たりはしていたが、時代も「手法」もチカチーロとはまったく別物の構築になっており、実話とはまったく違う世界を読者はのぞくことになるだろう。ウクライナ大飢饉について若干予備知識があると深刻さが多少増すかもといった程度で、世代や年齢などを問わずにいろいろな角度で楽しめる作品だ。