1995年にピュリツァー賞を受賞したこのノンフィクション。のっけからフィンチの嘴の計測に数十年をかけた生物学者の夫婦の様子が紹介され、その世界にひきこまれる。そして、自然選択や進化といった現象はけっして長期にわたる観測不可能なものではなく日常的に常に発生していることも徐々にこの本を読み進めるにつれて理解できるようになっている。生物学を知らなくても著者が非常にわかりやすく、かつ詳細なコメントをつけてくれているので読みやすい。しかも面白い。ガラパゴス諸島での実験データをもとにコンピュータで解析していくプリンストン大学の学者夫婦の生活の描写もまた面白く、フィンチの種類や生活の様子も可愛い。そして、生物の種の分裂と融合のダイナミズムに魅せられる。観測・計測に始まりそしてその実験データを解析する…その科学的方法のプロセスは、数十年にわたる野外観測の苦労の賜物だった。データの収集の大変さと分析の大変さ、そしてさらに専門分野の論文やそれ以外の書籍の読書の重要さを認識させてくれる素晴らしい本だ。「伝説の進化」ではなく日常的な「進化」に意識を向けさせてくれるこの本は生物学のみならず人間の日常生活そのものを見直す一つの契機にもなりうるだろう。
かなりいろいろな分野の書籍を読みますが、まずはビジネス関連書籍を中心に…なお個人的な☆印ですのであまり御参考にはなさらず…自分の好きな本を読んで好きなように活用していただく一助になればと思います。現在合計で2143冊の書籍についてアップロードしています_¢(0-0ヘ)。そろそろ「タグ」をまめにつけて整理していこうかな、と考えています。順不同ですがそのうちに分類基準を決めていきます【^_^】 「濫読」ではあるのですが、定期的に 1.民法・会社法 2.財務会計 3.近代経済学 4.流通・マーケティング 5.世界史関係 の書籍は読むようにしています。
2009年2月16日月曜日
フィンチの嘴(早川書房)
1995年にピュリツァー賞を受賞したこのノンフィクション。のっけからフィンチの嘴の計測に数十年をかけた生物学者の夫婦の様子が紹介され、その世界にひきこまれる。そして、自然選択や進化といった現象はけっして長期にわたる観測不可能なものではなく日常的に常に発生していることも徐々にこの本を読み進めるにつれて理解できるようになっている。生物学を知らなくても著者が非常にわかりやすく、かつ詳細なコメントをつけてくれているので読みやすい。しかも面白い。ガラパゴス諸島での実験データをもとにコンピュータで解析していくプリンストン大学の学者夫婦の生活の描写もまた面白く、フィンチの種類や生活の様子も可愛い。そして、生物の種の分裂と融合のダイナミズムに魅せられる。観測・計測に始まりそしてその実験データを解析する…その科学的方法のプロセスは、数十年にわたる野外観測の苦労の賜物だった。データの収集の大変さと分析の大変さ、そしてさらに専門分野の論文やそれ以外の書籍の読書の重要さを認識させてくれる素晴らしい本だ。「伝説の進化」ではなく日常的な「進化」に意識を向けさせてくれるこの本は生物学のみならず人間の日常生活そのものを見直す一つの契機にもなりうるだろう。
2009年2月11日水曜日
深夜食堂第1巻(小学館)
営業時間は深夜0時から朝7時までの食堂。人はそれを「深夜食堂」とよぶ。メニューは豚汁定食、ビール、お酒、焼酎のみ。後は客のリクエストで「できるものは作る」。それが深夜食堂。常連もまじえての甘い卵焼きにタコ型ウインナー、一晩寝かせたカレー。常連客の人間模様と出会い、そして別れ。顔に傷もつ主人の日常お惣菜への思いいれと客の心のふれあいが泣かせる。どうやらこのお店、新宿にお店があるという設定らしいが、新宿2丁目から3丁目まで、けっこうこんな雰囲気のお店はまだまだ残っている(らしい)。ちなみに一晩寝かせた冷たいトンカツもなかなか美味しい。いつか登場するのではないかと密かに楽しみにしている。
為替がわかれば世界がわかる(文藝春秋)
単行本での出版は2002年だから、この手の書籍としてはかなり古い出版ということになるが内容はいささかも古びていない。文庫本発刊は2005年でそして2009年現在の為替動向すらも著者は見通していたかのような鋭い分析が展開される。鋭いだけでなく、扱っている材料も非常に面白い。
「リ・オリエント」という単語が繰り返し著述されるが具体的には中国とインド。もともとはA.G.フランクの言葉だが、21世紀を迎えてさらに中国とインドの経済的台頭がめざましい。アメリカの支配力が弱まるという長期的展望は現在のドル安がそれを示している。1987年2月のルーブル合意以降はドルと円は一種の「レンジ相場」に入ったという見方も円高の現在、一定のレンジ内で動いているわけだから長期的には正しい分析なわけだ。
書籍の中ではソロスの生の姿も紹介され、ハンガリーのブタペスト生まれでロンドン大学でカール・ポパーに教わり、そしてポパーの「オープン・ソサエティ」という概念に大きく影響されていることなどが紹介される。そしてソロス自身が誤謬性と相互作用性というきわめて柔軟な考え方の持ち主であることも。為替当局の官僚だった著者が、ヘッジファンドの大物と実際に会い、そこで会話することでさらに研ぎ澄まされた感覚を養っていくプロセスもまた本書で明らかになる。そしてローレンス・サマーズの生の姿も紹介され、ポール・サミュエルソンとケネス・アローの両方が血縁にいることをはじめてこの本で知る。官僚的で金融引き締めの政策をおしつけるIMFには地域コミュニティのアドバイザーをめざすべきと進言し、外交的にはバイラテラルな関係からマルチラテラルな関係を提案。そして、教育的には知識の量と想像力は正の相関関係にあることを指摘。タイトルだけからすると為替中心の本のようだが、実際には、情報の重要性や信用経済の「信用度」の重要性、そしてフィジカル・コンタクトの重要性などビジネス社会全般に通じる深くて応用の利くテーマが目白押し。文庫本でこの内容の充実度は素晴らしい。
ナンバー2が会社をダメにする(PHP新書)
サブタイトルが「組織風土の変革」なのだが、メインタイトルよりもサブタイトルのほうが本書の本質を現していると思う。組織の不祥事はたまたま起こるのではなく組織風土から必然的に発生するというメカニズムの解説が行われており、JCO事故や金融不祥事などが具体例として取り上げられている。会議のあるべき姿や権威主義の暴走など、他の不祥事にも通じる解説が展開されており、会社などに勤めるビジネスパーソンで、「ああ、これはあれと関係がある」とすぐに身近な例に思い当たることが多いのではないか。権威主義的な人間を見抜き、なるべくその特性に合わせて社内で対応し、企業不祥事を防止する。非常に実用的な内容で、しかも実例が取り上げられているから応用が利きやすい。また数値など間接的指標を利用するといった著述も非常に納得がいく。巻末には著者の過去の著作物のリストも掲載されており、興味のある分野をレファランスすることも可能。
2009年2月10日火曜日
ヤバい経済学(東洋経済新報社)
何気なく手にとっているうちに、データから理論を読み解いていくと、思いもかけない結論に達する…しかもそれにはちゃんとした合理性がある…というこの本の世界にひきこまれる。「あらゆるものの裏側」をデータを中心にみていこうとする二人の経済学者は、罰金が必ずしも遅刻を減少させない理由をインセンティブから解き明かし、ニューヨークで犯罪率が減少した理由を各種の統計から明らかにしていく。KKK団と不動産屋さんの共通点を探り、アメリカの教師と日本の相撲取りの共通点をあぶりだす。特に「完璧な子育て」についての章は意義深く、結局、親自身のこれまでの人生がそのまま子供に反映されるのであって名前がどうあろうとあまり関係ない…という結論に至るまでの論証が圧巻。巻末の索引や翻訳者による解説も充実しており、情報の非対象性や回帰分析はこういう風に使うとこんなことがわかるのか…と天才たちの仕事ぶりや頭の働かせ方を覗き込むのにも役にたつ。軽いエッセイの感じでも読めるが、逆に深く読み込もうと思えばさらに深く読み込むことも可能な経済学の本。
2009年2月8日日曜日
管理会計の卵(税務経理教会)
「卵」ということで入門書の前の入門書という位置づけだが、けっこう内容は濃い。管理会計がメインではあるものの、原価計算の役割から、製品原価計算、個別原価計算もしっかり学習した上でCVP分析や標準原価計算、業務的意思決定、長期投資の意思決定までカバーしている。管理会計というと本来は標準原価計算ぐらいから戦略的意思決定までがだいたい入門書のレベルだろうが、本当の初心者のためには原価計算や工業簿記の意味づけも当然説明しなくてはならない。そこで本書のような構成になったのだと思うが、手にとって読み始めて最後まで読破できる読者はおそらくある程度原価計算の全体像が理解できている人だけだろう。とはいえ、コストフローの流れから戦略的意思決定までかなり丁寧に説明されており、入門書の入門書としてよりも「全体像の理解」というか「まとめ」として活用するのには優れている本だと思う。著者は米国公認会計士で、日本語のメリハリがきいていて読みやすい文章。
2009年2月2日月曜日
食がわかれば世界経済がわかる(文藝春秋)
「産業革命」の前提として農業革命で生産効率が著しく上昇した結果、工場労働者が農村から供給される地盤が整備されていたことを知る人は案外少ない。しかし元大蔵省の「為替」を知り尽くしたエリートはいとも簡単に農業革命をさらっと説明してしまい、しかも単一商品栽培によるコストの低下と大英帝国の繁栄を数行で適確に表現してしまう。
映画「エリザベス~ゴールデンエイジ~」では弱小の大英帝国艦隊が無敵艦隊を迎え撃つシーンがやや悲壮に描写されていたが、著者の視線は局所的な海戦ではなく、スペインやポルトガルの収奪的な植民地経営と英国とオランダの産業育成的な植民地経営を比較して長期的視点で大英帝国の繁栄をとらえなおす。
アメリカ北部においても農業や牧畜を中心とする産業を育成し、戦略的な植民地支配を行った。マレーシアにおけるゴムなどは特殊な例(またはインドにおける綿花など)だがあとはほとんど農産物。つまり「食」に関することだ。世界経済の「食」の市場を制圧することで大英帝国の覇権が確立されていったことがまず論証もしくは紹介される。
その後アメリカは米英戦争を経て独立。ヨーロッパとの貿易がとだえたことから国内の工業生産が発達するとともに、農業も小麦を中心に飛躍的に生産能力を向上させていき、ポスト大英帝国の土台を築いていく。大量生産・大量消費のまるで工業的な農業生産方法によって。さらに本書は食文化が栄えた絶対王政の時期のフランス・ブルボン王朝に嫁いできたイタリアのメディチ家の二人(カトリーヌ、マリー)、さらにルイ13世が迎えたフェリペ3世の娘、ルイ14世が迎えたフェリペ4世の娘、さらにオーストリアの王妃マリー・アントワネット、ルイ15世の迎えたポーランドのマリー・レクチンスキーとフランスにもたらされたイタリア、スペイン、オーストリア、ポーランドの食文化の輸入を指摘し、ワインからシャンパンが生まれた歴史を解説してくれる。
そしてフランス革命が貴族の料理を一般市民に拡大して現在にいたるわけだ。ガストロノミー(美食学)の始まりである。さらに中国の食文化、オスマン帝国、インド、東南アジアと解説され、テーマは食の文化では歴史が古いアジアがなぜヨーロッパに侵略されたのかに移っていく。イスラム国家は商人のための国家というこれまで知らなかった解説をこの本で知り、ユダヤ商人やレバノン商人などもイスラム商人と行動をともにし、それを十字軍が破壊していったという見方を知る。そして東方貿易によってトマト、トウガラシなどがアメリカ大陸からヨーロッパに輸入されていく。ジャガイモもアンデス山脈からヨーロッパに輸入され現在の食文化を構築していく…。
わづかに200ページちょっとの文庫本だが内容は極めて濃く、しかもそのいずれもが経済に結び付いていくという構成が魅力的だ。著者の博学さと世界史の流れが一望できる点で素晴らしい一冊といえる。歴史的資料などをかなり参照して執筆されたことは巻末の参考資料の多さが物語る。グルメではなくとも読んでいて思わず内容に引き込まれていく文庫本の中の名作。
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