2011年3月20日日曜日

巨大投資銀行(バルジブラケット)上巻・下巻(角川書店)

著者:黒木亮 出版社:角川書店 発行年:上巻2010年 下巻:2010年本体価格:上巻781円 下巻781円 評価:☆☆☆☆☆
1985年3月から物語の幕が上がる。東都銀行を退職する(おそらく京都大学卒業の)主人公桂木が退職する場面だ。かつての金融機関は今でもその名残を残しているが、官僚以上に官僚的で閉鎖的な世界を構築し、入社年度と学歴による細かなセグメントが社内にあった。モデルはおそらく当時の三○銀行ではないかと思われる。その後ウォール街にわたる桂木は数々のM&A案件を処理していくが80年代ではM&Aというのは今ほど脚光をあびるものではなかった。もう一人、日本平均株価のバブル崩壊を見越した竜神。カラ売りを先行させ、現物市場が理論値を下回った段階で仕入れて売る。いわゆる裁定取引で莫大な利益を稼ぐ。この手法から新株予約権付社債や転換社債に目をつけそのオプションを購入するとともに先物で売り立てていく。バブル崩壊とともにワラントがタダ同然になったという話は有名だが、この竜崎の場合にはただ同然で株券を仕入れて、空売り分に廻すのでその間の利ざやはさらに拡大。そしてもう一人の主人公藤崎はバブル崩壊後、損失先送りのための金融商品を販売して売上を拡大。当時の実名での企業名が並べられているがいずれも不正会計で逮捕者を出したり経営が破綻して今はない会社ばかりだ。SPEなどを活用した現在の手法と比較するときわめて原始的な手法で損失先送りをするのだがかなりのレバレッジが効いているため、株価が下がれば損失はさらに拡大していくという仕組みになっている。で、この話は2002年まで日本と世界の金融の歴史をたどり、最後は関西の地銀を中心としてできあがった日本第5位のファイナンス・グループの代表となる。こうした一種の成功ストーリーというよりも、1985年から2002年にいたるまでの17年で日本と世界の金融のありかたや雰囲気がいかに変化していったのかそのプロセスを理解するにもいい教材だ。また当時の大蔵省の金融行政についてもちらっとその場面が描写されているが、当時は株式市場を買い支えるのに4大証券に電話で指示を出すといったようなこと、多々あったということがよくわかる。今ではさすがに市場の流れを企業4社でどうこうできる状態ではないが…。オプションやTOBなど金融用語については巻末に用語解説が、そして上巻の頭には世界地図も付録としてつけてある。読み始めたらおそらく5~6時間はこの金融のリアルに見える世界に取り込まれて本を手放すことができなくなるのは必定。

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