2017年11月22日水曜日

「先生も知らない経済の世界史」


著者:玉木俊明 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2017年 本体価格:850円
 高校の世界史はすべての一般教養の基礎となるが,そこからさらに奥深い世界に行くのには,ある程度その分野の書籍を読み込んでいく必要がある。ちょうど高校を卒業したばかり,あるいは大学で一般教養や専門分野の歴史について学ぶ必要がある人にはちょうどいい内容ではあるまいか。もちろん大学を卒業してから世界史には触れる機会がなかった社会人にとっても,学校で学習した内容が現在どのように進化しているのかを知る良いきっかけになる。
 おおむね4つの基本骨子(大塚久雄やダグラス・ノースなどの学説紹介・アジアの発展の理由・ヨーロッパの経済成長・社会主義経済をはじめとする近現代の世界経済)にそってテーマごとに執筆されている。特に「流通」に着目した世界史の分析は,この本を読むと理解が進むだろう。スペインのガレオン船と中国のジャンク船については,それぞれ個別ばらばらに学習するはずだが,銀の流通にガレオン船が使われた根本的な理由と当時の中国がこうむった「機会損失」については,この本を読むまで思い浮かべることもなかった。過去を通して現在を見るという意味では,「流通」を軽視すると国家経済にまで大きな影響が及ぶということにもつながる(電子商取引がいかに進化しても,流通をどうするのかはアナログ面で解決しなくてはならない。その意味で,この部分を軽視する電子商取引は目先の利益とは異なる展開を生みかねない…という発想につながる)。
 とはいえ過去に学習したことがらをさらに発展させた内容なので,気軽にすらすらというわけにはいかないかもしれない。googleなどで関連する用語(たとえばセファルディムとかディアスポラなど)を検索して調べながら読む,山川出版社の世界史用語集と横において読むというのも一つの手だろう。単なる歴史マニアの参考書というのにとどまらず,おそらくいかなる分野であっても「今」を考えるのに必要な材料を得ることができるのは間違いない。

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