2017年11月13日月曜日

「わたしの好きなおじさん」

著者:南綾子 出版社:実業之日本社 発行年:2013年 本体価格:617 「物語」の主人公には,なにかしら欠けた部分が存在する。この物語に登場する「おじさん」はすでに年齢を重ねている分だけ,「欠けている」といえなくはない。さらに年齢だけでなく,性格的にも個性のあるおじさんが6人登場する。 「ロード・オブ・ザ・リング」などハリウッドの映画が古典的なストーリーで構築されているのと同様に,6つの短編はいずれもその筋は古典的な流れで固められている。いったんは「あっち側の世界」に飛び越えていって主人公は最終的にこちら側に戻ってくるのが実は一番ストーリーが安定する(「ロビンソン・クルーソー」だって主人公は最終的にはこちら側の世界に戻ってくる)。で,将来に行き詰まりを感じた6人の女性も,いったんは「あっち側」(非日常生活)に飛び越えていくが,最終的には「こちら側」(日常生活)に戻ってきて,話自体は安定するという構図である。
 ただそれだけで終わらないのがこの著者の力量で,特に「不思議なおじさん」はとてつもなくすごい仕掛けがあちこちに散りばめられている。一見,悲劇的な終わり方のようでいて実際にはハッピーエンドの予兆を読者に読み取らせるという手腕は見事だ。まあ簡単に「あらすじ」の「さわり」を書くと,死のうとしている元AV嬢が田舎町にやってくる。そこで精神的に大きな問題を抱えているおじさんと出会う。なぜかそのおじさんに心ひかれるが,最後はそのおじさんと悲劇的な別れを遂げる。しかし,その一方で幸せな出会いを予感させるくだりが…ということで,「死のう」としていた女性が「生きる希望」のとっかかりを得るまでのくだりが小説となっている。他の短編は正直ちょっと疲れる展開だったのだが,「不思議なおじさん」。読んでる方にも希望を与えてくれる。




0 件のコメント: