2013年7月2日火曜日

トーキョー無職日記(飛鳥新社)

著者:トリバタケ ハルノブ 出版社:飛鳥新社 発行年:2009年 本体価格:952円
 著者の実際の体験を「脱構築」して作り上げた大学中退後に無職の生活をへて、20代後半からようやく働き始める「おれ」を4コマ漫画で描く。ここで描かれる「ニート」の生活は、おそらく著者が1975年生まれということと無関係ではあるまい。1980年代後半のまだバブル経済の余韻が残るころでは、「フリー」「アルバイター」という言葉はむしろ自由な人生を切り開く積極的な意味を持っていた。それがネガティブなイメージに転換するのは、1990年代後半ぐらいからではなかろうか。で、多くの場合、「ニート」が自宅から一歩足を踏み出してからの世間の風は厳しい「はず」だが、この漫画では意外や意外、周囲の人は暖かい。
 「ふつう」、家にひきこもって人間不信で社会人生活もろくにおくっていない人間が、働き始まると、そこでコミュニケーション不全を起こして再び元の生活にもどるか、あるいは無味乾燥な労働再生産のサイクルに落ち込むはずだが、この漫画では、というかこの作者はそうなっていない。いろいろな理由があるだろうが、ひとつは「作者」が作成したホームページから始まるネットワークの存在がある。
 これ、本当の意味での引きこもりには入手できないアイテムで、「ニート」「ダメ人間」と自嘲するわりには、オフ会でそれぞれの人生観を語り合ったり、自分のダメっぷりを暴露したりと、非公式のネットワークが「作者」を支える。出来すぎともいえようが、このネットワークがあるかないかは、そのまま引きこもっているかどうかを分ける大きな分岐点になりうる。作者もあとがきで「ご都合主義かも‥」と書いているが、試行錯誤のすえに漫画家として「成功」できたのは、おそらく利害関係がほとんどないネットワークの力ゆえであろう。
 世相を反映して殺伐とした漫画が多い現在、珍しいほど結末が明るい漫画だ。ちょっとした身のまわりにある「幸せ」を再発見するにも、いい内容だと思う。画力のなさ加減がまたリアリティがあってよい。

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