2013年7月28日日曜日

ワーキングプア(ポプラ社)

著者 NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班 出版社:ポプラ社 発行年:2010年(文庫版)
 アベノミクスとよばれる巨大な金融緩和政策と財政出動、そして抽象的ではあるが成長戦略の骨子が公表されて数ヶ月。株価はあがり、円安による影響もあって物価は上昇しつつある。それでもなお、先行きがみえないのが、賃上げや有効求人倍率の上昇といった労務関係の動向だ。
 本来であれば日本は少子化になるのだから人件費は供給される人口が減少していくほど一人あたりの賃金は上昇するのが筋だ。それがそうならないのは、ひとつには企業内部の資金が適正に配分されていないため、どうしても若年層への配分が小さくなる、非正規雇用契約の労働者の増加、海外からの労働力の流入といった要因がある。この本でも、岐阜県の繊維産業で活用される中国人留学生のエピソードと留学生の活用によって日本人労働者や会社の経営が苦しくなる様子や、ホームレス化する若者のエピソードが紹介されている。昭和初期の貧困とは、やはり今の貧困は様子がどうも違う。たとえ正社員であっても「ほんのちょっとしたこと」(離婚や整理解雇、会社の破産など)でワーキングプアに転落しかねないのが今の現実で、そうしたリスクを支える社会のセーフティネットはまだまだ不十分。というよりも失業保険の支給期間なども短縮化され生活保護の給付内容も厳しく制限される傾向にあるなか、この平成大不況をきっかけにワーキングプアにいったん転落すると次の世代にもその「貧困」が継承されかねない危険もはらむ。「貧困をどうするか」について景気の拡大をめざすのであればやはり金融政策や財政政策の運用ということになるが、もうひとつは社会保障費の支出内容を洗い出して、削減するだけではなく、効果的な運用という具体的な「中身」の選別も必要になるだろう。たんに企業の収益が拡大しただけでは、「真面目に働いても報われない」といったワーキングプアの問題は解決できる要素が少ない。

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